門の前で立っていると、中からドアが開いた。カラン、と音を立てて中から千種ちゃんが出て来た。
「どう、かな?」
「―――うん、凄いよく似合ってる」
「でもいいの?これ着ちゃっても、」
「いいんだよ、折角の夏祭りなんだし、わたしのお古だけどそれで楽しんでおいで」
「じゃあ…お言葉に甘えて」
「行ってくるよ、おばあちゃん」
「いってきます」
「あぁ、いってらっしゃい」
夏休み(と言ってもお盆だけ)に実家に帰省した所、丁度地元の祭りがあったらしい。それを朝千種ちゃんに電話した所、行く行く!行きたい!って行ったから一緒に行くことになった。で、昼過ぎに僕の家に彼女が来たら、おばあちゃんが何かを探すようにたんすの中を漁りだした。「なにやってんの、おばあちゃん」って言ったら、皺だらけの顔に更に皺を寄せて、にこにこしながら「寿也、これ見て」と言った。白い包みに覆われたそれを見てみると、そこには向日葵のプリントがされた浴衣があった。「折角の夏祭りだし、千種ちゃんも女の子だから…」おばあちゃんはそう言って、それを床の上に置いて開いた。
そんなこんなで、おばあちゃんが推しに推して千種ちゃんは浴衣で出掛けることになった。おばあちゃんって、こんな人だったっけ?
「日本の祭りはほんとに久しぶりー楽しみー」
「向こうはなかったの?」
「んー…事あるごとにお祭り騒ぎしてからねー。縁日は無かったし」
「そっか、」
「うん、だから、ありがとね」
アップに上げた髪の毛に、花のピンをあしらえた千種ちゃんはほんとうに可愛かった。
「あ!寿也、金魚すくい!射的もあるー!!!」
それからはしゃいだ千種ちゃんに勝負をかけられたのは言うまでもない。
(久しぶりとか言いながら千種ちゃん、凄い金魚すくい上手いんだけど!どんだけ取ってんの君は!)