苦しい。なんて一言じゃ表現できない。
動けない。雁字搦めの鎖に囚われて。
助けて。お願いだから助けて。
もう終わった事。だから大丈夫だと思っていた。
だけど、思ってただけだったみたいだ。
あたしはまだ、囚われている。
『――――初めまして。日本から来ました。 です。よろしくお願いします』
父親の仕事の都合で、あたしは中学入学と同時にアメリカに渡ることになった。中学へ行ってもリトルを続けるつもりだったから、正直アメリカなんて行きたくなかった。
でも、あたしはあの時自分の意思でアメリカへ行く事を決めた。(アメリカへ行っても野球は出来る)(そうは信じていた)
アメリカに引っ越して、まだ間もない頃、あたしは出会ってしまった。
『お前、野球やるのか?』
『そーゆーアンタこそ。野球やるの?』
『………………やっちゃ悪いか?』
『ううん。ぜーんぜん! アンタ、名前は?』
家の近くの公園で、練習をしていた時だった。
それは全くの偶然だった。
それからあたしは彼と直ぐに打ち解けた。それはあたしと彼に共通の話題があったからだ。野球と言う、共通の話題。
『日本の、リトルリーグ……ねぇ』
『何よ。文句あんの?』
『いや、お前投げれんのかと思って』
『文句じゃん。それ。じゃあ、そこ立ってよ。あたしの球見たらいいよ』
金髪碧眼。アメリカではそう珍しくもない容姿だが、あたしから見れば十分珍しい外見の少年。彼はジョー・ギブソンジュニアと名乗った。
あのギブソンに息子が居たのかとあたしはは驚いたと同時に、女だからと馬鹿にした彼に腹が立った。何よ。此処でも“女が野球なんて”って言っていると思った。だからあたしは奴に勝負を持ちかけた。(って言っても、あたしの一方的な勝負だったけど)
結果は言うまでも無い。日本人とアメリカ人じゃ、十二でも体格が違いすぎた。
『チクショ!』
『不貞腐れんなよ。お前よりも俺の方が凄かっただけじゃなぇか』
『それが悔しいんだよ! 馬鹿!』
『おま! 馬鹿ってなんだよ馬鹿って!』
『馬鹿に馬鹿って言って何が悪い! バーカ! ばーか!』
負けたのは初めてじゃない。でも、何故か涙が出てきた。
それは、ぽろぽろとそれはあたしの頬を伝って。拭っても拭っても涙は止まらない。終いには、嗚咽が漏れた。
ジュニアも、まさかあたしが此処まで泣くのは思っても見なかったんだろうか。慌てて「いや、でも、お前の球結構すごかったぜ」とか言いやがって。余計涙が出てきた。
それが、あたしとギブソンジュニアの出会いだった。
『お前さぁ。マネージャーやってくんねぇ?』
『ハァ!? アンタ今なんつった? ふざけるのも大概にせぇ!!!』
頭一個通り越して、二個。自分よりも高くなった奴の前に仁王立ちしてあたしは奴を睨みつけた。奴――ジュニア――はそっぽを向いたまま、あたしの額を軽く小突く。「あだ!」結構、痛かった。
でも、それは仕方の無い事だと思うんだよね。うん。
『なんであたしがマネやんなきゃいなんないのよ』
『お前のドリンク美味いんだよ』
『だからってなんでマネ……』
めんどくさい……。
そう呟いたあたしに、ジュニアはまた額を小突いた。『あほか』
『お前、親父と同じトレーナーになりたいんだろ?』
『そうだけど、ジュニアにゃ関係ないでしょ!』
『そろそろ限界なんじゃねぇの? 俺達とお前じゃ、もう体格が違いすぎるし』
『分かってる。でもあたし好きなんだ。……野球。止められないの』
『馬鹿』
『るせぇよ、馬ー鹿』
アンタもでしょ。
馬鹿にしたような顔で馬鹿と言ったジュニアに、あたしも言い返す。親父の球、これでもかって程打ち返すとか、親父の野球人生俺が終わらせてやるよとか言ってるアンタも結構な野球馬鹿じゃない。あたしと一緒。
確かに、あたしは選手になれない。だけど野球に触れていたい。だからあたしは父親と同じ道を歩く。(まぁ、サラリーマンだから給料少ないけどね!)でも仕事で海外とか行けるし。いいとあたしは思うのだよ。うん。
そう。あたしの人生には常に野球と。
『だから、プレイングマネージャーってあるだろ? それだとマネしながらプレイ出来んじゃん』
プレイングマネージャー、ねぇ。ジュニアもたまにはいい事と言う。でもそれって、深く読むとあたしの仕事が増えるって事だよね。マネ業しながら選手でちょこっと参加。(これからの事を考えると、それもいいかもしれない)
アメリカ、だから。なんて言葉じゃ納得できない。きっと日本でも、あたしがマウンドで正々堂々と勝負が出来るのもきっと、高校入学まで。今のあたしとジュニアの体格差がこうだし。(まぁジュニアは運動してるから他の野郎よりかはそれなりにいい体格してる)
『プレイング、マネージャー……ねぇ。まさかアンタの口から聞くとは思わなかった。カミュー辺りがそろそろ言ってくるかなって思ってたんだけど、』
『あいつから聞いてもお前絶対、選手止めないだろ』
「当たり前よ。あたしもちゃんと考えてやってんの』
野球は。いや、選手は、十五まで。それからは本格的にトレーナーの勉強に入る。そう決めているんだから。野球と生きていく為に。
『でもまぁ……。
――――考えておいてあげるよ。好きなんでしょ、あたしのドリンク』
あとがき
おおおお待たせ…しました。書き直すとか言いながらそのまんまの展示です。今になって読み返して、まぁ妄想の産物だし、いっかなと思いまして。ちょうアバウト人間ばんざい。ということで、辻褄あわせがんばります。
(20091204)