029.目蓋を開ければ青-2-

 プレイングマネージャー。日本語では選手兼監督の事。
 あたしの場合は、選手兼マネージャー。

 ジュニアが言っていた事もあって、今では普通にマネージャ業もこなしている今日のこの頃。十二でアメリカに来て。二年が経とうとしていた。マネ業も一年やっていれば慣れるもの。(と言ってもあたしは選手でもあるので主にスコア管理がメインになる)
 時々、マウンドにも立てるし。それなりに楽しい。っていうかめっちゃ楽しい。このままずっとこうして野球が出来たら、なんて考えてしまうくらい楽しかった。
 そんな時、お父さんはあたしに言ったんだ。進路を、どうするのかと。

『お父さん、まだこっち居なきゃ駄目なんでしょ? 地元のハイスクールに行けたらと思ってるんだけど』
に、その気があれば日本に帰ってもいいと私は考えているんだよ』
『日本の高校? もうどんな学校があるか分かんなくなったのに』

『――――海堂高校、も知ってるわよね?』
『お母さん。甲子園優勝の常連校でしょ。それくらいあたしだって知ってるよ。あそこには静香さんや泰造さんが居るんだし』
『じゃあ、そこの野球部の特待生制度が使えるって言ったらあなたはどうする?』
『え!? 海堂に行けるの!?!』

『静香君達のお父さん……総監督が承諾をしてくれているのだよ』
『静香さんのお父さんって、どゆこと?』

 娘のあたしに話を通さないで、何をやってたんだウチの両親は。(あたしの将来の事を考えてくれているって事は分かってるんだけど)

『トレーナーになりたいって以前、静香君にも言っていただろう? それで、もし、日本に帰ってくるようだったら紹介すると、言って来てくれたんだ。私もまさか、特待生でとは思っていなかったんだかね』
『まぁ、相手は静香さんだし……でもあたし一人で日本帰るって、住む場所は?』
『そこで、野球部だ。あそこは野球にことさら力を入れているからな。総監督の許可もあるから、お前一人くらいならマネージャーとして入部も可能だ。そこの寮で生活をすればいい』

 トレーナーに、なるんだろう。父さんはそう言って“海堂学園”のロゴが入った封筒をあたしに渡した。そう、だよ。トレーナーになる事が、あたしの夢。野球と生きていくため、の。(今思ったけれど、海堂って海堂学園って言うんだよね。あたし普通に高校って呼んでた)

『考えてみる、よ。ありがと』










 選手として、プレイするのは最後と決めた試合がある。今日はその“最後”の試合の日。監督にもそう伝えてある。
 進路は、まだ決めかねている。だって野球の本場は此処――アメリカ――だし。どうせならいい場所で勉強したいと言うもの。でも、日本でってのも悪くないと思っている自分が居る。

『(だって、女が野球やるなんてって陰湿な虐めを受けていたのを克服して此処までやってきたんだし。まぁ、実力で認めさせたけどね。あたし、あんな大立ち回りしたの初めてだよ)』

 だから此処まで居心地のいいチームになった。

、思い切り投げておいで?』
『モチ!』

 マネージャーのカミューに背中を押してもらって、あたしはマウンドに向かった。

『(インハイ、低め、ストレート)』

 捕手の指示にあたしは頷く。そして、腕を大きく振り上げた。

『(男にゃ、負けない!!!!!)』

 あ、涼子ちゃんと同じ事言ってる。涼子ちゃん元気かなあ。涼子ちゃんと言ったら、真島さんや寿也だよね。あ、そう言えば吾郎も居るよ。アイツ等まだ野球やってる、かなあ。
 うん。日本、帰ろう。
 マウンドから降りて、ベンチに向かう。そしてあたしは何時も通り、ジュニアの隣に座り、何気なく口を開いた。

『ねぇ、ジュニア。決めた』
『何を、』
『あたしの、進路。これからの、事』
『あぁ? んなモン、お前、高校行くに決まってんだろ』
『うん。日本の高校に行く』
『あぁ!!??』

 ジュニアがキレた。










 それから、回は進んで行き、最終回となった。
 その時だった。あたしの背中に、ガツンと背中に衝撃が来たと思うと、地面から足が離れた。頭に星マークが飛んだ。何が起こったんだろうと自覚する前に、浮いた身体が砂の海に沈んだ。
 視界の隅に、カミューがベンチから立ち上がったのが見えた。

!!!!!』

 ――――ブチン。
 あたしの中で何かが壊れる音がした。


あとがき

やっと過去っぽい。

(20091204)