はそう思わずにはいられなかった。何故なら夢島組が特待生組に勝ったのだ。嬉しそうにはしゃぐ夢島組に、特待生組は冷ややかな視線を送る。そして渡嘉敷と米倉が突っかかって行ってしまった。
これはヤバイかも、と思ったも走って二人の後を追う。
「渡嘉敷、よね「俺達は負けたんだ、潔く認めろ」」
「薬師寺…」
「お前何泣きそうな顔してんだよ」
「いや…だって………薬師寺って、やっぱ外見だけじゃなくてメンタル面も大人なんだなぁって。ちょっと惚れちゃったかも」
「あぁ?」
「嘘だけど」
「お前っ!」
「いやーん、薬師寺ったら顔赤くしちゃってぇーかわいいー!」
きゃははと笑うに、特待生メンバーはまた始まったと顔を見合わせる。全く理解出来ていない夢島組は顔を見合わせるも首を傾げるばかりだ。
「はいはーい。じゃあ夢島組の皆のハテナを解消しってあげましょー。
、こっちに来なさい」
「はーい」
「紹介するわ。海堂高校野球部二軍マネージャー兼スポーツドクター見習いの ちゃんよ。皆と同じ厚木寮で生活してるから、仲良くねー」
「あ、正確にはドクターじゃなくてトレーナー目指してます」
静香がにっこり紹介すると、はぺこりとお辞儀をして「よろしくね」と言った。それを聞いて寿也は「そうか」と納得する。何故なら海堂高校には体育科の中に養成コースがあるからだ(しかも成績優秀者には海外留学もさせてくれる)。
「彼女は中学まではアメリカに居たから、そっちの事もよく知ってるから聞いてみたらどうかな?」
「えぇ、じゃあ帰国子女なんすか!?」
「うん、そうなるかな」
「じゃ茂野と佐藤とは何処で?」
「昔横浜に住んでた時に。あたしこう見えてもリトル時代はピッチャーで寿也とバッテリー組んでたの」
「……本当だよ、三宅。なんだよそんな顔して」
「なんか想像つかんわ」
「別に想像して欲しくて言ったわけじゃないから。
それと、吾郎、アンタさっき色々と無茶したでしょ。後でアイシングしてマッサージして貰ってよ。皆にもだけどクールダウンはちゃんとしてね。じゃないとあたしの仕事が増えるから。
静香監督。今日はもう終わりですよね?」
「えぇ、そうよー。幾らあたしでもこれから練習なんてやわないわよ」
「じゃ、あたし学校行って来ます」
「うん、行ってらっしゃい」
は寮に向かって歩き出した。その背後でまたもや状況が理解できない夢島組が首を傾げた。
その日の夜。時刻は二十二時を回ろうとしている頃だろうか。
寿也は大浴場から出て来た所で、と遭遇した。お互いに身体が火照っているところからして風呂上りなのだろう。
「あ、寿也」
「ちゃん」
「久しぶり。一年振りかなぁ、友の浦と三船東の試合以来だから」
「そうなるね」
「立ち話もなんだし、自販機行かない?」
「うん、いいよ」
まだ入寮一日目の寿也は何処に何があるのか分かっていないのだが、は半年も生活していたのだ。寿也の前に立って歩いている。
ふと視線を下に向けると、艶っぽいのうなじが見えた。短い髪の毛が首筋に張り付いている。慌てて、視線を外した。
「なんか、懐かしいね。寿也とはリトル一緒だったからそこまで思わないけど、吾郎はえっと…何年ぶりだろう?」
「そうだね。ちゃんが僕達のベンチに来た時は僕も吾郎くんもびっくりしたよ」
「あはは、アレはあたしも驚いた。だってベンチの場所聞いてなかったんだもん」
本当は特待生組の所に行きたかったんだけど。とは言う。
「今回、静香さんから夢島組のサポートには回っちゃ駄目って言われてたからね」
「え?どうして?」
「分かってるでしょ。今回の歓迎試合は歓迎って言ってても、本当は君達夢島組にはレギュラーになれるなんて思わないでって言う意味の試合だったんだから。サポート出来ないベンチに行っても面白くともなんとも無いしね」
「でもちゃんは何かと僕達の世話を焼いてくれたよね」
「あれはね、吾郎が無茶をするからよ。事前に夢島組の名簿をさせて貰っていたけど、まさか本当に二人だとは思ってなかったし。
本当にあそこから勝っちゃうなんて思わなかったよ。まさかの眉村も登板したし。寿也なんて逆転サヨナラホームラン打っちゃうしねー。
あ、寿也は何飲む?」
「僕はお茶で。
まさかあんな場面で打てるとは思わなかったよ。」
「ま、誰も予想してなかったからね。夢島組が勝つなんて。
お茶お茶…っと。あたしはココアー」
自販機から出て来た缶を渡す(ちなみにこの自販機のお茶は○ーいお茶だ)。寿也はありがとうと、受け取るとソファーに座った。その隣にも座る。プルタブを開ける音が二つ響いた。
「ねぇ」
「なぁに?」
「何時から、此処に行くって決めてたの?」
「こっちに帰って来た時には入学は決まってたかなぁ。特待生で入れてくれるって言ってくれたし」
「そっか」
「寿也は、何時此処に行こうって決めたの?」
「吾郎くんが、海堂付属ってか眉村くんにボッロボロに負けてからかなぁ。入学して見返してやるって」
「吾郎らしい」
「ちゃんは、アメリカ居た時は何をやってたの?」
「近くのシニアで、マネ。後は母さんの趣味で色々と」
「小母さん、色々とやってたもんね」
「うん。ま、多趣味なお陰で娘は色んな事が出来るバイリンガルな娘にすくすく育ったけど?」
「小父さんが野球、やってたんだよね」
「会社のサークルだけどね」
「そっか」
「ね、寿也」
「何?」
「無理して、会話をしなくてもいいんじゃないかな?
なんか今の寿也、ピリピリしてる感じがする」
「無理なんかしてないけ「じゃあその作り笑いは何?」」
「……………」
「その癖、まだ直ってなかったの?」
「ちゃんは、やっぱり何でもお見通しだね」
「何が言いたいの」
「何でもない。
―――――おやすみ、ちゃん」
「……………おやすみ寿也」
その後、一人残されたは自嘲的な笑みをしながらココアを一気飲みした。別れてからの空白の三年間が、もどかしく思えた。
「(人事じゃないけど、あたしも修復は難しそうだなぁ)」
寿也と吾郎の場合はすんなりと修復したのに。と小さく漏らした。
次の日から夢島組も、学校に行くようになった。厚木寮から学校までは距離があるので、皆バスに乗って行く。
「まさか勉強があるとは…」
「ちょっと、吾郎何言ってるの。あたし達高校生だよ?当たり前じゃん!」
「半年間野球しかせぇへんかったから、なんか心配やなぁ」
「だよねぇ、俺も思う!」
「大丈夫!三宅に泉っ!!!あんた達は授業なんてやっててやってないようだから!野球部は野球部だけでクラス編成されてるしね」
座席でぐったりと沈んでいる吾郎に呆れ、頭を抱えて唸る三宅と泉を安心させるようには拳を握り締めて言った。
ちらりと寿也を見ると、ただ一人だけぼーっと外を見ているように見えた。
「ねぇ薬師寺」
「ん?」
「おとこのこって、複雑だよねぇ」
「…俺も男だ」
しみじみと言うに、薬師寺は深い溜め息を吐きながら返した。
学校に到着すると、は一目散にバスを駆け下りて走って行った。他のメンバーがのろのろと降りながら「いやー今日も俊足」と関心している。
「大変だよねー、トレーナーコース」
「今日は実習って言ってたしな」
「薬師寺、なんで知ってんの?」
「ノート見ながら唸っていたのが見えた」
「え、あんな騒がしい中でノートなんて見てたの?」
「あれ、同じクラスじゃねぇの?」
「知らないの?は同じ体育科でも少数のスポーツトレーナーコースなんだよ。俺達はただの体育科だけどね」
「よく知ってんなー渡嘉敷」
「俺達は春から一緒だからなー。よくトレーナーコースと合同授業とかやるし」
「応急救護とか、マッサージとかやって貰うんだ」
渡嘉敷と市原がよく分かっていない夢島組にトレーナーコースについて説明しながら校舎に入る。その合間に、一軍宿舎の場所をちらりと教えてもらっていた。
その時、恐らく全力疾走しているのだろう。スカートを翻しながら走っているを一同は見付けた。何処に向かって走っているんだろうと見ていると、彼女は一軍宿舎に入って行った。直後「直樹ー!」と力一杯叫んだ声が聞こえた。
「何あれ?」
「多分、今日の実習は一軍のマッサージかなぁ。さっき叫んだ名前が、の担当なんじゃないの?」
「で、直樹って」
「ピッチャーの榎本 直樹」
「あ、そっか。眉村達は一軍の試合見に行った事あるんだよな?その人、どんな人?」
「お前、外野手だろ?その質問は普通俺じゃねぇの?」
「え?茂野って、そう言うの気になる人だったの?」
「渡嘉敷!お前俺を何だと思ってんだ!」
「ごめんただの馬鹿としか思ってない」
渡嘉敷のその一言に、不貞腐れる茂野。
予想通り、今日から海堂高校野球部二軍は騒がしくなりそうだ。
あとがき
小さな亀裂。アニメしか見ていないんですけど、私はこの人達が野球をしてる所しか見ていませんが、学校に言ってるんだろうか…?という事で学校に野球部専用バスで通ってます。野球しかしてないのできっと偏差値は低いです(でも寿也はきっと秀才です←当たり前)
(20080209)