逃げるように戻った京。それに追い討ちをかけるかのように、九郎の元に鎌倉から書状が届いた。
「熊野水軍を取り込め、とは。鎌倉も無理を言って来る」
「そうですね。ですが、これ以上失態は犯せません。何としてでも友軍になってもらうか、妥協して中立になってもらうか、それしかありませんね」
「策はあるのか、弁慶殿」
「――――ありません。熊野水軍は一筋縄ではいきませんから」
「これはわたしの憶測だが……熊野水軍は中立の立場を選ぶだろう。確かあの地は源氏にも平家にも縁の深い土地だ」
「ですが、僕達は友軍になってもらうしか、先はありません」
そこに望美が口を開いた。
「ねぇ、熊野水軍って?」
ごめんねぇ、私日本史はかなり弱くて。エヘヘと笑って誤魔化そうとする望美。譲が説明役を買って出た。「熊野水軍とは熊野…現代で言う和歌山を拠点にしまぁ、た近代でいう海軍のようなものです。今、先輩と弁慶さんが話しているのは、熊野水軍には源氏、平家両家に血の繋がりがあるんです」
「確か、この時代の別当…あ、望美、別当とはトップの事だ。この代の別当は母が平家の者だと思うのだが…それでも取り込まなければならぬのか……」
「ですが、さん当代の別当は代替わりをしたばかりですから」
「代替わりを? 此処も、わたし達の知る歴史とは違うのだな」
「だが、兄上の命令だ。何が何でも遂行しなければ」
拳を握って、九郎は言った。確かに、三草山の戦いに敗れた今、今回の熊野水軍を取り込めなければ責任を取らなければならなくなるだろう。――――失敗は、許されない。
熊野行きが決まった。