数日後。戦が始まると九郎が言った。
「三草山の戦い、か……」
「そのようですね。ですが、それは源氏側の勝利ですよ」
ポツリと呟いたに、心配するなとでも言うように譲が言葉を返した。
「そうだといいのだが、この世界はわたし達の世界とは違うんだ」
自分達と言うイレギュラーな存在。龍神信仰。先の読めない展開に、自分達は生き残る事ができるのだろうかと、一瞬、頭を過ぎる。それでも、生き残る。元の世界に帰るために。
戦の匂いは、直ぐそこまでやって来ていた。
「俺達は何としてでも、三草山で平家の進行を止めなければならない」
「そうですね。あそこを超えられたら京は目の前です。立地的にも、そこで迎え撃つのが常套手段でしょうね」
「望美、、譲」
九郎が達の名前を呼ぶ。
「お前達は、後悔しないな?」
「はい、九郎さん。私は、大丈夫」
「戦に参加するとなった時点で覚悟は出来ている。自分の身くらい、自分で守る」
「先輩が行くのでしたら、俺も行きます」
そのために鍛錬をした。自分の身を守るために。望美を傷つけない為に。望美が斬るのは、怨霊で十分だ。望美は、龍神の神子なのだから。
『(が責を負っている四神の神子は言わば八葉のような存在。神子と共にあり、神子を補助する)』
白龍が言っていた、の役割の意味が、戦の中にあるような気がした。
「……言っておくが九郎殿。わたしは、源氏の勝利の為に従軍するわけではない。わたしはあくまで、元の世界に帰るためにこの剣を振るう。結果的にそれが源氏の加担する事になろうとも、わたしは源氏に組する武士ではない。それは、望美も有川も同じだ」
「分かっている」
「九郎はそう分かっていても、鎌倉殿は違いますよ」
「分かっている、弁慶殿。だが、わたしは源頼朝と言う人間を知らない。だから、知りもしない人間の為に剣を握り命をかける事は出来ないんだ。そこまで妄信的な源頼朝と言う人間を信じている訳でもない。結果的に外から見れば、源頼朝の為に命を預ける事になるだろう。だが、わたしは頼朝のためではなく、望美のため、有川のため、元の世界に帰るため、その為だけに戦場に立つ事を、総大将である九郎殿に知っていて欲しかったから、言ったんだ」
「……分かった」
の言う通り、外から見れば達は源氏に組する雑兵にあたいする。鎌倉殿――源頼朝――に命を預けているように見えるだろう。だが本人達は鎌倉に忠誠を誓っている訳でもないし、なんでもないのだ。鎌倉と自分達は無関係であるつもりなのだ。
今回の行軍も、そのつもりであった。目的の為に、行軍する。鎌倉の目的と自分達の目的が同じであったから、一緒に行動をする。それだけであった。