その場に居た達は固まった。九郎の奴何を突然言い出すのだろうかと事情の知らない男性陣(特に譲)と朔はそのような表情をしている。
「あの…今まで内密にしていましたけど、本当に九郎さんと私は許婚の関係にあたるんです」
「ですので大変申し訳ないのですが、辞退を申し上げているも、望美も法皇様にお譲りする事は出来ません」
「(ダイコンにも程があるよ…望美)」
内心突っ込みを入れながら、は法皇に頭を下げる。口には出さず、姿勢で申し訳ない降りをして。それを見た法皇は、残念じゃと言いながら小さく息を吐いた。
源氏の席に戻ろうとした所で、帰ってくるのが遅い望美との様子を見に来たのだろう。(何も全員で来なくてもいいのに、とは思った。)「望美」朔が笑みを浮かべた。
「貴女、一体何時から九郎殿の許婚になったのかしら」
「初耳ですよ。九郎もどうして隠しているんですか」
「え? それは、望美達が…」
朔も弁慶も本気で言っているわけではないのだが、九郎は顔を真っ赤にしてもごもごと言い出した。冗談を冗談と取れない男、九郎。からかい甲斐があって面白い人だ。(彼の純粋さは時に笑いを巻き込むので実に愉快だと、と弁慶は後に語り合う。)
「もう…冗談ですよ、九郎殿。本気で言う訳ないでしょう」
「な、冗談だったのか朔殿」
「朔、姑みたいで面白かった」
「それは純粋に喜んでいいのかしら、」
「一応褒めているのだが」
「ふふ、ありがとう」
役者になれるな、とは言いながら、先頭に立ち神泉苑を後にする。出入り口の近くで将臣を回収し、一行は九郎を残し京邸へと戻っていった。
その帰り道、将臣は世話になっていると言う邸に帰っていった。譲と望美が引きとめようと言葉を口にするが、我が道を行く男将臣は問答無用で西へと向かって行った。
「西、ねぇ」
はぽつりと呟く。
「どうかしたの、ちゃん」
その呟きを耳にした景時がほやーっとした雰囲気を醸し出しながら尋ねた。は首を横に振りながら「(まさか、考えすぎだろう)」と思いながらなんでもないと言った。「(だが、源平の世に、西……東が源氏、西は……)」
この考えが的中しない事を、は祈った。