海神の方舟に乗って


02.呼ばれるのではない、呼ぶのだよ

02.呼ばれるのではない、呼ぶのだよ

 ぞろぞろと一行は神泉苑に向かう。

「九郎さんは何処だろうなァ」
「源氏の席はあちらにあるみたいですね」

 キョロキョロと辺りを見回しながら、九郎の姿を探す望美にいち早く九郎を見つけた弁慶が手のひらを示す。ここで指を指し示さなかったのは彼の性格ゆえか。

「なんだか望美、楽しそうね」
「そうだな。将臣の無事が確認出来たのが良かったんだろうな(プチ・肉食獣になっているが)」
「でしょうね。離れ離れになっていた、幼馴染だものね」
「朔、母親みたいな雰囲気がする」
「あら、、どういう意味」
「いや。そのまんま。望美は、手のかかる奴だからかな」

 一人っ子なせいか、少し我儘に成長した彼女。だが、それにはある種のカリスマ性があり。だからだろう。九郎達の先頭を歩くように、彼女はこの世界を突き進んでいる。
 元来、おっとりとした性格をしていて、外見はどちらから言うと美少女系の望美。だが、その本来は、唯我独尊だ。何時か、酒を嗜むようになったら彼女は必ず言うだろう。私のお酒、飲めないの? と。その様子が微かに目に浮かぶ。お願いだからその表の性格のまま、少し我儘だがおっとりとした天然系キャラであってくれ。

「見た目は完璧、美少女系なのに……」

 将臣を引っ張りながら歩く望美の後姿は、やけに逞しく見えた。おっとり天然キャラは獲物に油断させるための性格なのかもしれない。

「九郎さーん!」
「――――お前達か」
「へへ、来ちゃった」
「聞いている。席は用意しているが…その男は」
「幼馴染の将臣君。下鴨神社で会ったの」
「いや、俺はこういった場所はちょっと苦手だから、席はいらない。向こうで見させてもらうわ」
「えー」

 今だと言わんばかりに将臣は望美から離れる。そしてその流れのまま、一行から離れて近くにあった桜の幹にもたれるように立った。賑やかな場所は嫌いではない将臣だが、それには何か理由があるのだろうとは納得した。あまり自分の事をさらけ出さない将臣だ。何かある、と。
 将臣君逃げちゃった、と可愛らしく口唇を尖らせる望美に「兄さんだから」と譲は言う。

「前に聞いていた人数分、席を準備している。案内しよう」
「(肉食獣となった望美をスルーする九郎殿…いや、案外気付いていないのかもしれない。彼は変な所鈍感のようだから)」

 一行から離れた将臣の、何故助けてくれなかったんだ視線が背中に突き刺さった。

「(わたしはまだ巻き込まれたくない)」

 九郎が用意した席に、一行は腰を降ろした。
 その後、しずしずと白拍子が舞台に上がった。


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