海神の方舟に乗って


02.呼ばれるのではない、呼ぶのだよ

02.呼ばれるのではない、呼ぶのだよ

「それで、将臣君。私達、これから神泉苑に行こうと思ってるんだけど、雨乞いの儀式を見に。一緒に行こうよ?」

 望美が笑顔で将臣に問いかける。その笑顔は、否は許さないぞとハートマークが付きそうな勢いだ。この時の望美にはYESしか返答は許されていない。
 将臣もそれは知っている。視線を揺らしながら後頭部を軽くかいた。は視線で将臣に諦めろ、と言う。

「わーった、わーった」
「よーし、じゃ、神泉苑にしゅっぱぁーつ!」

 京に来てから、剣の鍛錬を始めた効果が出ているのか。思っていたよりも筋力アップに成功した望美の力は、将臣を軽く引きずる程度はあったようだ。

「ちょ! 望美! 離せ!」
「えー将臣君、逃げない?」
「逃げない逃げない!」

 だから離せ! と慌てながら将臣は言い、引きずられながら体制を整える。

「ふふふ。二人は大変仲がいいのですね」

 弁慶が柔和な笑みを浮かべて笑う。どの意味を込めて仲が良いと弁慶は言ったのだろうか。

「わたしは高校に入ってからの付き合いだからよく分からないが、この二人は何時もこんなもんだった」
「高校って何?」
「わたし達の時代には年齢別に学問を習得する施設がある。高校と言うのは、14歳の時に希望した子供達が15歳から18歳の間通う、高等学校の事になる。詳しく知りたかったら、また話す」
「さん達の時代は、本当に学問に力を入れているんですね」
「まぁ、この時代と比べると、識字率は100%だからな。当たり前の事になっている」
「僕達もしっかりしないといけませんね」
「弁慶殿だったら、軍師や薬師じゃなくて学問を教える先生でも十分食べていけそうな感じだな」

「! 呑気に話すんな! 助けろ!」
「その状態の望美には関わりたくないんだ。大人しく引っ張られてろ」

 少し涙目になっていた将臣を、は軽く視界から外した。


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