海神の方舟に乗って


02.呼ばれるのではない、呼ぶのだよ

02.呼ばれるのではない、呼ぶのだよ

 桜の木の下に立つ。その凛とした姿は現代組の瞳を点にした。目が離せない、と言う事はこの事なんだろうか。そのシャンとした背筋、半眼に開かれた瞳。少し開いた口唇は艶やかで。そして、一本筋の通った雰囲気。
 は、これが源九郎義経なのかと生唾を飲んだ。ゴクリ。音がいやに大きく聞こえる。やがて九郎が音を紡いだ。

「今からお前に見せるのは、花断ちと言う。これが出来たなら、俺は従軍を認めよう」

 一瞬の静寂。花びらが舞い落ちる。そして、九郎の「は」と言う呼気の直後、九郎の目の前をひらひらと舞い落ちていた花びらが、真っ二つに裂けた。

「本来ならば、このように人前に見せるものではないのだが、手本があった方が分かりやすいだろう。……望美、出来るか?」
「花断ちが、出来たら、認めて…くれるんですよね」
「ああ。だが、直ぐにやれとは言わん」
「分かりました。私、やります。練習します」
「…、期待はしていないが、やってみろ。暫くの間は京で仕事をすると思うから、出来るようになったら教えてくれ」
「私、絶対やって見せますから」

「九郎さん、春日先輩は、その花断ちをすれば認めてくださるようですが、俺達はどうなるんですか? 俺の武器は弓ですし、先輩は、」
「戦場に付いて来るつもりだったら、そうだな…譲については俺は弓は得てではないから他の者に見てもらうことになるな。、お前はどうするんだ?」
「あまり乗り気では無いが、望美のお守りが有川だけでは手に余るだろう。わたしも行くよ。望美、これは借りだから、何時か返してもらうから覚えておいて」
「うん、ありがとう」
「それで、九郎殿。わたしも花断ちを見せれば構いませんか?」
「お前は、確か武道の心得があるんだよな?」
「九郎殿からしてみれば、遊びのような物ですが」
「…………手合わせを、するか」
「え…九郎殿と?」
「俺が嫌なら、弁慶でもいいが」
「いや、別に構いません。ですが、本当にそれでいいので? わたしも、望美と同じ花断ちの習得で構いませんが」

 結局、望美と同じ花断ちの方が、九郎以外の面子も分かりやすいと言う理由から、も花断ち習得が条件となった。その後、九郎は名代としての仕事が残っていた為、六条堀川の邸へ戻って行った。弁慶は五条の自宅に用事があるからと帰り、この場には現代組と朔、白龍が残る事になった。
 望美は朔と白龍、譲にはその辺で適当に時間を潰して貰うように言い、と二人早速花断ち習得への特訓を始めた。
 見よう見まねで剣を上下に振るう望美に、頭の中で自身が花断ちを行う様子を描く。それぞれ別々のやり方で、習得へ向けて剣を握る。

「(私は、必ず成し遂げる!)」

 九郎が見せた花断ちが、望美の脳内に映像として流れていく。それと同じように、望美も剣を振るった。


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