「私、戦う」
望美が言う。
「覚悟は出来ているのか? 怨霊を相手にするとは言え、覚悟は必要だ」
「みたいに、嗜んでいるわけじゃないから、怨霊とは言え誰かを傷つける覚悟なんてまだ出来ないよ。正直、怖い。…戦いたくないよ。でも、私は…私は何もしないまま後悔はしたくないの。やらないでいるよりは、やる方がいいでしょ? 戦う事が元の世界へ帰る事に繋がるのなら、私は、戦う」
白龍が嬉しそうに「神子」と小さく言った。
「怨霊を封印する為に、源氏に従軍する事になっても、いいの?」
「え……どうして?」
「普通に考えたら分かるだろう? 平等院で弁慶殿と朔から聞いた事、忘れたのか? 自然に嘆きから生まれて来る怨霊も居るが、大半は平家が対源氏用に兵士として怨霊を作り出しているんだ。効率的に白龍の力を上げる為には、従軍して怨霊兵士を封印する事が帰る為の一番の近道になるだろう?」
湯飲みを置いて、は言う。その言葉に望美の顔が次第に強張っていく。流石にそんな所までは想定出来なかったのだろう。は、少し間を置いてまた口を開く。
「何故なら、白龍の神子の封印と言う力は源氏軍にとっては一滴の光となるであろうから。弁慶殿なんかは考えているんじゃないのか? どうやって望美を戦場に連れて行くかをね」
黒龍の神子である朔を怨霊を鎮めると力があると言うだけで、従軍させている事。
それは即ち、御伽噺を言われている龍神の神子を引っ張らないといけない切羽詰った状況に源氏が立たされていると言う事。
達の世界では、平家は衰退の一途を辿るしかない結末だが、この世界はそうでもないらしい。
「わたしの考え、間違っていますか、弁慶殿?」
「…………いいえ、間違ってはいませんよ。君の言う通り、望美さんの封印の力は平家にとって脅威になるでしょうからね。それに、白龍の神子――君――と言う存在が現れた事は何時か必ず鎌倉殿の耳に届くでしょう。そうなれば勅命で従軍させられる事は決まっています。無理やりさせるより、自ら進んで判断して頂く方がいいでしょう」
「だろうな。何時の時代も、人の噂は直ぐに広がる。わたし達がこの京で怨霊を封印していく事は決まった事。そうなれば、人の動く所に話が伝わるだろう。此処では、御伽噺と言われていようとも、それを放置しておく事は出来ない事なんだろう。龍神の神子と言う存在は、」
それだけ龍神の神子――望美――大きな存在だと言う事なんだろう。
のつり目がかった瞳が、弁慶ただ一人を見据える。
「そうですね。彼女の力は朔殿同様、僕達源氏軍の一滴の光になるでしょう。それは、君にとっても言える事ですよ」
「四神の神子とやらも、御伽噺の一つなのか?」
「えぇ。龍神の神子と同じく伝承の一つですからね。しかも、四神の神子について龍神の神子より情報が少なく、未知の存在だと、僕は思っていました」
龍神の神子が居るから、四神の神子も存在するんですね。弁慶は最後にそう言って、お茶を口に含んだ。
「だが、わたしがその四神の神子とやらの役目を担う事になった……。白龍、その四神の神子とやらは何をするんだ」
「四神の神子はその名の通り、四神全ての加護を持ち、その力を使う存在」
「ようするに、四神の親玉的な?」
「のその言葉はよく分からないけど、多分」
「青龍、白虎、朱雀、玄武から加護を与えられ、尚且つ、その力を使う…ね。それって龍神の神子よりとは言わないけれど、八葉よりは何だか強そうだな。まぁ、仮にもその四神は龍神の部下だし」
「そうなの?」
「わたしの記憶とこちらの世界の龍神と四神が共通だったら、そうなる」
と弁慶の話が長引いたので、今日の話し合いは此処までとなった。
朔と譲は夕飯を作りに席を立ち、弁慶は彼の私室へと戻って行った。は日課のストレッチを始め、望美と白龍はそれを見学する事になった。
「ねぇ、……私達、これからどうなるんだろうね」
「…なるようにしかならない」
「神子……」
望美もも、運命と言う不確かなものに流れるしか無いのだと、感じ取った瞬間だった。