海神の方舟に乗って


02.呼ばれるのではない、呼ぶのだよ

02.呼ばれるのではない、呼ぶのだよ

 朔の邸は、広かった。道中、狭いなどと謙遜の言葉を使っていたから、どんな邸なんだろうと思っていたのだが、朔の邸は本当に広かった。なんたって、兄があの戦奉行の梶原 景時だ。

「……朔、凄い広いお邸だね」
「そんな事は無いわ」
「謙遜し過ぎ。わたし達の価値観だと広すぎるよ。よくこんな広い邸、一人で仕切ってきたな」
「兄上は留守にしがちだから、私が頑張らないとと思って」

 朔が微笑みながらお茶の用意をする。譲が手伝いを申し出た。

「さっきから気になっている事があるのだけど、いいかしら」

 人数分の湯飲みに、お茶を注ぐ。譲が、朔に言われてお菓子を持ってきた。それぞれの前に静かに置きながら、朔は言った。

「白龍は、やっぱりあの、白龍なの?」
「どういう事?」
「あ、ごめんなさいね。白龍は、龍神の白龍なのか、と言う事よ」
「そうだよ。今は力が足りなくて、神子と同じ人の形をしている。私は、ちゃんと人の形になっている?」
「なっているわ。黒龍とほんと…そっくりよ」

 両手で湯飲みを持ちながら、望美が納得したような表情で言った。

「じゃあ、やっぱり白龍が私達を向こうの世界から連れてきたんだ?」
「うん」
「私は白龍の神子、譲君は八葉、将臣君とは?」
「まさおみ…って人はまだ分からない。だけど、は四神の神子だよ」
「四神の神子? 初めて聞くわ」

 白龍が考えながら人の言葉を紡いでいく。の役割に、朔が首を傾げた。

「あ、白龍、話戻していい? 白龍が私達をこっち連れてきたんだから、帰る事も出来るよね?」

 望美がそう言うと、白龍は瞳を閉じて集中をし始めた。重力に逆らうかのように、白龍の髪の毛が浮かぶ。だが、それは長く続かなかった。瞳を開いた白龍が、悲しそうな表情で「だめだ……」と呟いた。

「な、何をしたの?」
「神子の世界へ、繋げようとした。でも、力が足りなくて出来なかった……」

 それが一体どういうことか。

「五行の力が、足りない……私は、神子の願いを叶える事が出来ない……」
「ね、ねぇ、白龍、それってどういう事なの?」
「私に力が足りないから、神子を元の世界へ帰す事が出来ない」
「だったら白龍、どうすれば力が戻るんだ?」

 が言う。そこへ今まで黙っていた弁慶が口を開いた。

「手っ取り早いのは、怨霊を封印して土地の力を上げることです」
「弁慶殿、それは望美に戦えと言うのか?」
「そういう事になりますね」
「八葉とは、神子…望美を守る存在の筈では?」
「ですが彼女だって剣を持っているでしょう?」
「……彼女は素人ですよ」
「だが彼女は白龍の神子です。黒龍の神子の朔殿には不可能な封印を言う力を持つ、白龍の神子だ」

 と弁慶の間に、見えない火花が散る。

「――――戦う」


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