階段を上がると、まばらに武装した男達が数人で固まって居た。その中を朔は先頭を行き、ぞろぞろと達が続く。
「(朔が源氏軍って言ってたから、時代的には平安末期から鎌倉時代と想定が出来る。でも、この“陣”の雰囲気からして、既に鎌倉時代に入ってると思ってもいいかもしれない)」
横目で周囲を見回しながら、は最後尾を譲と歩く。朔と共に居た少年――白龍――は望美と合流してから望美にべったりだ。望美も白龍がくっ付いてくるのはまんざらでもない様子で、仲良く手を繋いで歩いていた。
「あら…九郎殿はどちらに居られるんでしょう……?」
「そこの者! 何をしている!?」
達に向けられた声に反応して、一行は声の聞こえた方向に顔を向ける。そこには、若い武士のような青年が一行を睨んで仁王立ちしていた。
オレンジ色をした癖のある長髪を一つにまとめ、少しつり目がかった瞳は強い意志を持っている事を連想させ。白を基調とした水干に、笹竜胆が描かれている。腰には太刀を下げている。
「九郎殿、」
朔が青年の名前を呼んだ。その声で、青年――九郎――は朔の姿を確認したのだろう。
「朔殿か、今までどちらに行かれていたのだ。女の身で行軍は体力的に難しいのは分からない事もないが、勝手に軍を離れてもらっては困る」
「……申し訳ありません」
「ちょっと! 軍から離れたのはそりゃ、悪いけれど、朔の言い分も聞いてくれてもいんじゃないの? 朔、怨霊の嘆きで動けなくなってたんだよ?」
「貴様、何者だ? その格好、木曽の女兵ではあるまいな?」
「九郎殿、彼女は私の対、白龍の神子です。私が怨霊に囲まれた時、その封印の力が発現しました。彼女が、白龍の神子です」
「白龍の神子?」
「えぇ。私は怨霊の声を聞き、鎮める事しか出来ません。ですが、望美は、白龍の神子は浄化させる事が出来るのです」
「フン…与太話も程ほどにして頂きたい」
「ちょっと! さっきから黙って聞いてりゃ、何一方的に決め付けてんのよ!」
「ならばお前がその白龍の神子だと言う証拠があるのか!」
「神子は神子! わたしの、神子だよ!!」
九郎と朔の言葉の応酬から、望美が乱入し、ついに白龍までが加わった。各々、あれこれと主張をしながら、その言い争いは白熱していく。最初に、離脱したのは、朔だった。
少し疲れた表情で、小さく溜め息を吐く。自分と言う黒龍の神子と言う存在は認めているのに、どうして望美――白龍の神子――は認めようとしないのだろうか。
朔は、少しだけ、悲しくなった。