危ない、と叫んだ声は離れ離れになっていた後輩の声だった。望美は後輩に庇われるような格好で、落ち武者の攻撃を避けた。その直後に、もう一人離れ離れになっていた友人の声がした。
「何してるんですか!」
「え? 譲、君?」
「何してるんだはお前だ有川! 来るぞ、油断するな!」
自分と譲に背を向けるようにして、友人――――は剣を正面に構えた。グググ…ギギ。落ち武者――怨霊――が攻撃のモーションを始めた。倒さなきゃ。封印、しなきゃ。
望美も、腰の剣を手に取った。
彼女の背後には、小さな子供と年若い女性が抱き合うようにしてしゃがみ込んでいた。
「くそっ! 何なんだこいつ等は!」
譲が苦しそうな表情で叫ぶように言う。も、目の前に居る落ち武者が人間ではない事を感じながら、剣を振った。
「倒しても、また蘇る……彼等の為には、封印をしなければ……」
子供と抱き合っていた女性が、懐から扇を取り出す。子供を自身の胸に押し付けるように、片手で抱きしめる。子供も、目の前に広がるものが怖いのか、瞳を硬く閉じていた。
「封印?」
「そう。望美、貴女が先程行ったものよ。今度は私も祈るわ」
「分かった、やって見る。、譲君、怨霊を、少しだけ、任せてもいい?」
「怨霊って…まぁ、人間じゃないってのは薄々感づいていたけれど」
「先輩、冷静ですね」
「この状態で取り乱して、何かいい事があるとでも? だったら思いっきり取り乱してやるわ」
そう言っては、譲に襲い掛かろうとしていた落ち武者――怨霊――に剣を突き刺した。
「有川、油断大敵だぞ」
ニッと、口唇だけで笑った。