辺り一面雪化粧とはこの事を指すのだろうか。
は譲とこの景色を堪能する事無く、寧ろ辺りを警戒しながら歩く。
「つか、さっきの。何? 落ち武者? シャアアアーしか言ってないけど。つか、あれ、人?」
何時の間にか腰にくっついていた剣帯から細身の刀に似た片手剣を手にして、は落ち武者のような者に突進する。その背後では、譲が弓を構えて立っていた。
「ヤアアアァァァアア!!!!」
突きの姿勢のまま、落ち武者に突っ込んでいく。そのまま、剣は落ち武者の頭部に深く突き刺さった。そして、効き足を上げる。落ち武者の腹部に、の足が食い込んだ。
「先輩、剣道は…足技禁止ですよね」
「今はそんな事言ってる場合じゃないでしょう! 早く蹴散らすよ!」
「…分かりまし、たっ!」
の背後に向かって、譲は弓を引いた。その弓は、落ち武者の眉間に深く刺さった。
「有川、アンタ…実は流鏑馬の名手だったり?」
「そんなわけ無いでしょう。早く春日先輩を探しに行きますよ」
譲の言葉に、はまた一歩踏み出した。サクッ、サクッ。雪を踏みしめる足音が響く。
二人が歩いた後には落ち武者と戦闘をした名残を残しながら。
それからどれだけ歩いたのだろうか。数分か、数十分か。然程時間は経過していないように思いたいのだが、状況がそれを許さなかった。探し人を姿を追い求めて、と譲は歩いた。
「先輩、あれ!」
「あれは…望美? 襲われかけてる… 「先輩!!」 っ! 有川待て! 飛び込むな!!!!」
駆け出した譲を捕まえようと伸ばした手は、空を掴んだ。譲の背中を、は見る。彼は、落ち武者から身体で望美の身を守るように、彼女と落ち武者の間に入っていった。
「あの馬鹿!」
も、腰から剣を手に取り、駆け出した。