海神の方舟に乗って


02.呼ばれるのではない、呼ぶのだよ

02.呼ばれるのではない、呼ぶのだよ

「ねぇ、。今年のクリスマスはどうする?」

 一年前よりも延びた桃色ストレートの髪を揺らして、望美は隣を歩くに言った。は少し思案するような表情を作った後「望美に任せる」と返事をした。
 廊下から渡り廊下に出ながら、は外の様子を見る。朝から続く雨は、一向に止みそうにない。ただでさえ、冬と言う季節で寒いのに、雨で気温が下がり益々寒くなっている。雪じゃないし、とストッキングを履いて来なかった自分が憎い。

「そもそも、お前は参加出来るのか? 何か、前、合宿するとか言ってたよな?」
「多分、大丈夫だと思うんだけどね…まさか、クリスマスに合宿するとかそんな殺生な事するわ……けない、なんて口が裂けても言えないけど」
「だよな」
「わたしよりも、将臣はどうなの? 補習と被ったりとか」
「心配するな」
「何だかんだ言って、将臣君ってちゃんと平均点取ってるから大丈夫なんじゃない?」
「チッ」
「その面白くないって舌打ちはどうかと思う」
「私も」
「面白くないんだもん」
「かわいこぶって『もん』とか使っても駄目だよ、」

 屋根付きの渡り廊下は、端を歩くと水滴が付く。端を歩いているもそれは例外ではなく、移動教室の為、胸に抱えていた教科書に水滴が付いてムと表情を変える。
 廊下を中ほどまで歩いていると、反対側から見知った顔が入ってきた。「あ、譲君だ」望美が声に出す。その声が聞こえたのだろうか。譲は視線を一緒に歩いていた友人達から望美に移動する。

「先輩、どうしたんですか」
「あ、何でもない。譲君が向こうから歩いているのが見えて」
「そうですか。先輩達は移動教室ですか?」
「うん。雨なのに、移動なんてやんなっちゃうよ」
「それは仕方ないですよ。教科書、濡れないように気をつけてください」
「そうする。それじゃ、譲君またね………………あれ? 君、どうしたの?」

 外に向かって、望美が言った。と将臣、譲は望美のその一言に反応して外を見る。誰も居ない。望美は最後の一言を誰に向かって言ったのだろうとが思うと、その視界に少年の姿を捉えた。
 中華風を表現するべきなのだろうか。明らかに現代の服装ではない少年に、は一瞬動きを止める。だが、動きを止めたとは逆に、望美は足を少年に向けた。

「ちょ、望美」
「ねぇ? 迷子なの?」

「あなたが……」
「? どうしたの?」

「おい、望美、どうしたんだよ」
「先輩、」

「あなたが、私の、神子」

 何も無い場所から、津波のようなものが現れた。


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