「…君は、僕達が何処から来たのかご存知なので?」
黒い外套を羽織ったままだが、頭だけは被りをとった様子の弁慶が藤姫に言った。彼が言うと「実は、私も知ってるんです」とあかねが言った。それを聞いて天真達表情を隠しきれないお子様組が「え」と声を上げた。
「細かい所までは…分かりませんが。占いにはまだ細かい所までは出てきていないので…」
「じゃあ、こっちの白龍に聞けばいいんじゃん。あたしやったげよっか?」
「え…殿?それは「失礼…。こちらの時代の龍神はおろか、四神さえも鬼の呪詛によって囚われているのにかい?」」
藤姫がしょんぼりとすると、扇をパチンと音を鳴らし閉じながら友雅が口を挟んだ。
それを聞いて、望美達はぽかんと口を開ける。
そう言えばっていうかそう言われなくてもこの時代は鬼と人間が対立していたんだっけ、とは脳みその本棚を必死になって探る。こっちに来た時、弁慶に頼んで勉強しておいて良かったと内心ほっと息をつきながら。
そして、用心深く辺りを観察しているヒノエや弁慶と違い、別の意味では用心深く警戒していた。
そう、先ほどから胸元を嫌らしく漂うその空気。本当に気持ち悪い。何時ものように「キモいんじゃわれー!」と騒ぐわけにはいかず、一人耐えていた。
「こう見えては、占いとか探知能力とかは私達の誰よりも腕がいいんです。試してみませんか?」
「はっきりと言わせて貰うけど、どうせこの中にはまだあたし達を疑ってる人も居るんでしょう?だったらあたし達が不振人物じゃないって事を照明しなきゃなんないし…望美、リズ先生!!!!!」
自身がしている話を遮るように、が声を荒げた。そしてが名前を言う前に彼は動いていた。
―――――ザシュ、と太刀で真っ二つにされる音がする。それは、真剣に見ていなければ見えない速さだった。リズヴァーンの太刀で裂かれたそれは、今もまだ蠢いている。太ももに隠すように持っていた棒を組み立てながら、三節昆のようにそれを振り下ろす。
望美が、腰に掲げた剣を上空へ持ち上げ、言った。
「廻れ!天の声」「彷徨えるものよ」
「「響け!地の声」」「仄暗い水底を漂うものよ」
「「彼のものを、封ぜよ!!!」」「今こそ、輪廻に還るがいい」
望美の声に、鉄扇を持った朔の声が重なる。そして最後に、背中を押すようにしての声が重なった。
白龍の神子のみが出来る封印。黒龍の神子のみが出来る怨霊を鎮め。そしてそれらの力を増幅させる時空の神子の力が重なり、より強い封印となり怨霊を輪廻の輪に戻し転生が可能となる。
それは、の力が加えられた時のみ、成せるわざだった。
「あの怨霊は、多分あたし達が連れてきちゃった奴だよ。
将臣とか、九郎とかは見ても分からないだろうけど、此処の結界は怨霊を通さない。流石、龍神の神子と星の姫を守る強固な結界。あたしも伝授して貰いたいものだよ。
あぁ、話がずれたけど。此処まで言えば多分九郎以外は分かったでしょ。此処に怨霊が入り込むこと自体、ありえない事なんだよ。そうでしょう、泰明…さん?」
「あぁ」
泰明からの返事を聞くと、は懐から重りの付いた糸を取り出した。
「本当はもっとちゃんとした道具がいいんだけど贅沢言ってられないし。
藤姫ちゃんでいいのかな?取り敢えずあたしはあたし達が連れて来ちゃった怨霊を封印して回るから。自分達のケツくらい自分達で拭くよ。何人か残していくからソイツ等と今後を話し合っていてくれないかな?」
「殿、今日はゆっくり休まれた方が宜しいかと思うのですが…」
「いや、駄目。あの怨霊達は早めに輪廻の輪に還してあげないと。人間だった頃の欠片すら失ってしまう…。
それだけは避けたいの。一人の人間として。どうせあたし達が戦で殺してしまった敵兵達。最後まで、面倒みてやろうじゃん、って感じかなぁ」
「殿、それはどういう事ですか?」
「あ、そっか。言い方悪いけど、こっちは神子は封印して回るだけでよかったんだっけ?
生憎とあたし達の時代は戦が絶えなくてね。神子と地の青龍、地の朱雀は知ってると思うけど、源平合戦。あたし達が居た時代はそこなんだ。
だから一刻も早く戦を終わらす為に、あたし達は武器を取った。望美は白龍に封印の力と剣を与えられたしね。朔も朔で、怨霊を鎮める黒龍の神子の力に鉄扇で戦う。
さっきの封印の時のアンタ達の顔見たら、この時代では女が戦場で戦うなんて言語道断の時代みたいだけどね。あたしからしてみたら、戦える力があるのに戦わないなんて考えられない。大げさに言うと、あたしは戦場にも行くから、殺される前に殺せ、なんだよ。
弁慶、景時話し合い宜しく」
「!ちょっと待って!
―――――朔、ごめん私行くねっ」
「(こっち来てもマシンガンは健在かぁ〜…)
あ、俺も行って来るわ」
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黒い外套を被った優男――弁慶――が藤姫にその言葉の真意を尋ねたときだった。へぇ、あの人が詩紋の後釜かぁなんて思っていたら、空気が一瞬だけピリっとなった。怨霊のようで、そうではないように感じるその気配に、あたしが動けないでいると、と言う子が「望美、リズ先生!」と叫んだ。
そこからあたしは一体何が起きているのか、分からなかった。何故ならリズ先生(と言うかあの男、鬼の気配がプンプンしてくるんですけど!)が瞬間移動して、黒い物体エックスを真っ二つにしたかと思うと、追い討ちをかけるようにが三節昆っぽい棒みたいな武器を振り下ろして、あかねの後釜に当たる望美って子が剣を空に掲げながら言ったのだから。
めぐれてんのこえ ひびけちのこえ かのものをふうぜよ、と。途中から黒龍の神子の黒髪美人さん――朔――の声が入り力が増大。多分、一番の原因はの力だ。
あたしと同じ時空の神子と言うのに、力の使い方をよく分かっている。あたしはまだそこまで使い切れない。
んでもって、話を聞けばあの人達。人を殺したと言った。
それは流石のあたしも脳天をぶち抜かれたかのように驚いたよ。
「あの人達…人を殺した………?」
「あかねはあまり、聞かない方がいい。耳を塞いであげるから。
詩紋、アンタもだよ」
「、君も塞いだ方が「大丈夫。しなくていい」
少将があたしの耳を塞ごうと手を伸ばしてくる。
「あたしはちゃんと、聞かなきゃ…」
「だが君達が聞くような話では無いよ…」
「あの子達はそんな時代を生きてきたのよ。だから強い」
「があのようになる必要は無いよ」
「あたしは武器を持っている。はっきり言うと、あたしのアレは暗殺用の武器みたいなもの。殺傷能力は低いけど、あたしもアレを持つからには相当の覚悟が必要って事なのかな」
頑として譲らないあたしに、少将は「ふぅ」と小さな溜め息を吐いた。なんぞ、その溜め息は。まるで『頑固な姫君だ…』とでも言いたいのか。
言いたいのなら言えばいい!言っておくが、あたしは姫ではないからな。っていうかたしよりも姫らしいのは、あかねとかあそこの望美とか言う神子でしょう。腰に剣を携えておきながら、あれはないでしょ。(てか、彼女は絶対、女傑だ!!!)いやー誰よりも先に剣を抜く。
多分、あかね以上に彼等を守りたいんだろうね。じゃないと、戦わない。朔さんのように、例え戦場に出たとしても、救護とかで前線に出ないだろうね。まぁ、あたしは多分、彼女と同じだ。
守りたいものがあれば、自分が動く。
「さて、あたしも彼女達に付いて行こうかなぁ」
「殿、危険です!
彼等の言う怨霊が全てあのようなもの達であれば、我々が出ても意味がありません」
「……大丈夫だって、何もあの人達よりも前に出て戦おうなんて思わないし。多分、この辺りの詳しい地理、分からないだろうから案内するだけだよ。
(多分だけどね、多分。うん、多分手は出ない…と思う。多分)」
鷹通さんが「待って下さい殿!」と言っているのを背中で聞きながら、あたしは邸を出て行った。