あかねと詩紋、イノリが振り返る。彼等のその向こうには、八人の男と一人の少年、三人の少女が居た。目を丸くしてあかねは達三人を見る。達三人(泰明はどうか知らないが)も、あかね達三人の向こうの人達を凝視するように見た。
そしてその中の、茶髪のセミロングの少女がを指差した。
「、知り合い?」
「知り合いって言うかなんて言うかって言うかやっぱりあの人似ているよ!どうしよう!?まさかドッペルなんたらって奴っ!!?えぇ!!!どうしようあたし二十四時間以内に死ぬ?!!?いやいやまさか!あたしは三桁までしぶとく生きるって決めてんの!ええええでもちょっと待ってよ、どうしようヒノエ!あたしドッペルゲンガー見ちゃった!」
少女――――と、はひどく似ていた。それはもう、生き別れた双子のなんとかと思えるくらいに。唯一の違いは、髪の毛の色と眼鏡のある無しだけだ。
指を差されたは、自分を見て近くの赤毛の少年――ヒノエ――にぎゃおぎゃおと騒ぐ少女を見て天真の頬を思い切り抓った。
「いてえ!!!」
「あ、やっぱ痛い?じゃあ現実かなぁ」
「おま…それ自分のでやれよ」
「痛いの嫌い「俺だって嫌いだ!」」
天真が頬を抑えながらに言う。言われたはと言えば、眉を寄せて「うーん…」と言っている。
「えっと…なんだっけ…えっと…」とたまに呟くその言葉は、泰明と天真にしか聞こえない。
景時が「あっ」と思い出したように声を上げた。
「あれ…あの子、なんとなく九郎に似てない?」
「そう言えば、何処と無く似ていますね」
景時が天真を見ながら言う。続いて弁慶が。「九郎の若い頃にそっくりですね」としみじみ言うのだ。その横で将臣がこっそり「年寄り臭ぇ」とボヤいた。
「あ…あのお…」
あかねが控えめに望美に声をかけた。
「あなた達は?」
「私達?
うーん、どう説明したらいいんだろう……?」
「望美ーそんなん白龍にでも言わせたらいいんじゃないのー?さっきから白龍、ものすんごい笑顔だよ?」
「そうなのって白龍!?ちょ「神子ーーーーー!!!!!」」
「白龍ーーーーーーーーーー!アンタの神子は望美だーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!」
白龍の喜びの声に、の怒声が青空の下に響き渡った。
そして、所変わって土御門殿。
達はあかねに誘われるままに案内された邸に入った。
「それじゃあ、望美ちゃんは私の後輩になるわけだね」
「うん、白龍の話だとそうなるのかな」
「それから、朔さんは黒龍の神子だから蘭の後輩なんだね。なんか、不思議だなぁ。
ね?ちゃん」
「…そうねぇ、驚きを通り越すわ。
あたしでこうなんだから永泉とか鷹通さんは卒倒するね。頼久なんかは固まって暫く動かなくなりそう」
「あ、それ分かる。あいつ等、ぜってぇ声もでねぇぜ」
天真がそう言うと、の頭にはそんな彼らの姿が鮮明に思い描かれた。あぁ、少将は「ハハハ」と大人の余裕を見せようと笑いながらも内心固まってそうだ。「はっはっは!大人の余裕なんて糞食らえ!」と高笑いをするに、(一応)お客人である達が固まった。彼女達は違う意味で固まったのだ。
「………気にするな。何時もの事だ」
泰明がフォローにならないフォローをする。弁慶が「はぁ、そうですか」と弁慶らしくない生返事をする。
それくらい衝撃的だったのかもしれない。何故ならはによく似ているのだから。
「あ、私藤姫ちゃんに知らせてくるね!
泰明さん、天真くん、詩紋くん、イノリくん、後お願いね?」
「問題ない」「あぁ」「うん、分かった。あかねちゃん」「分かったよ」
あかねが小走りに廊下を走り出す。
残された彼らは灰汁の強い一行とどうやって相手にしようかと考えながらにかっと笑った。
「…ヒノエ、あたしちょっと思ったんだけど、此処ってなんか…古くない?
なんつーのこれ…。えーっと、寝殿造りだっけ?まぁ京もそんなんだったけどさぁ」
「というか私達が落ちた所、神泉苑だったよね?私が知ってるのよりなんか大きかったけど」
「あぁ、それ俺も思ったぜ」
「えー、大きかった?」
「そうね、私もそう思ったわよ」
「望美も将臣も朔も、よく見てたねーあんな時に」
「が騒いでて見てなさ過ぎだったんじゃないの?」
「ヒノエまでそう言うっ!
仕方ないじゃん。頭から落ちて地面とチューしそうだったんだよ」
辺りを見回していたが、思い出すようにヒノエに言う。その直後、望美が記憶を探るように言い出し、将臣、朔と続く。
そして、彼らの近くを歩いていたイノリが声をかけた。
「おい、着いたぜ」
「なぁ、此処は何方の邸だ?随分と位が高いように見受けられるが…」
「そりゃそうだろ。此処は左大臣の邸だぜ?」
「あ……九郎が固まりましたね」
「けど、アンタ達の知ってる左大臣の邸とは違うと思うけど?」
「さん…でしたよね?それはどういう事ですか?」
「それはあたしが説明出来るような事じゃない。どうせ龍神が関係してるんだから、あたしよりももっと分かりやすい説明をしてくれる人に聞いた方が早い。
泰明、糞ジジイ…じゃなかった。お師匠に式を送ってくる。話は先に進めといてって言いたいんだけど、少し待っていて貰える様に藤姫に言っといてくれない?今回ばかりはあたしも知っておかないといけないみたいだし」
「じゃ」と言い残してはイノリが手招きする部屋の前を通り過ぎて、突き当りを曲がっていった。
「―――――ようこそ、おいで下さいました。私は星の一族の藤と申します。当代龍神の神子さまにお仕えしております。どうぞ、お見知りおきを…。早速ですが、こちらの紹介をしておきましょうか。
まずは、龍神の神子さまである元宮 あかねさま。
そしてこちらから、天の青龍である源 頼久。地の青龍、森村 天真殿。
天の白虎、藤原 鷹通殿。地の白虎、橘 友雅殿。
天の朱雀、イノリ殿。地の朱雀、流山 詩紋殿。
天の玄武、永泉さま。地の玄武、安倍 泰明殿。
そして、時空の神子、 殿でございます」
幼い少女が毅然とした態度で、言う。
「えっと…初めまして。りゅ、白龍の神子の春日 望美と言います。私達も、紹介した方がいいよね?
じゃあ、天の青龍の有川 将臣くん。地の青龍、源 九郎さん。
天の白虎で将臣くんの弟の譲くん。地の白虎、梶原 景時さん。
天の朱雀、ヒノエくん。地の朱雀でヒノエくんの叔父さんの武蔵坊弁慶さん。
天の玄武、平 敦盛くん。地の玄武で私と九郎さんの剣の師匠のリズヴァーン先生。
景時さんの妹で黒龍の神子の朔。それから、時空の神子の ちゃん」
「後一つ、追加。
時空の神子兼、熊野三山を束ねる熊野権現の神子ですー「どういう事だよ!?」
天真が声を荒げた。がふと周りを見ると、他のメンバーも眉を寄せて藤姫を見ていた。その様子を見て、あの少女は星の一族と名乗るだけあって、随分と信用されているなと思った。
そしてふと思った。
自分達の知る星の一族は京のど真ん中と言っても大丈夫そうなこんな場所に住居を構えていなかった。と。そう、確か彼らは嵐山に邸を構えていた。
「殿は、分かったようですね。他の方も」
「え、じゃあ藤姫ちゃん、やっぱり、」
「そうですわ。占いでは、未来よりの客人…と出ております。そして、神子さまと八葉の助力となる者…とも。
改めて、ご挨拶させて頂きます。未来よりおいでなさった龍神の神子、八葉の方々…」
藤姫の発言に、一部の人は予想通りに固まった。そして気絶してきっかり三十分後に目覚めた。