「え…えぇ!?ちょっと待ってよ!」
全てのはじまりは、望美のその一言から始まった。
束の間の平和をのんびり梶原邸で過していた龍神の神子とその愉快な仲間達。そんな時、望美は何かよく分からない力が自分を引っ張るのを感じた。それが一体なんなのかは、白龍に聞かないと分からないだろう。しかし、事の自体は急を要するかのように、彼等は流されていった。
「なんか、これって俺達が異世界に来た時のような感じですね」
「って譲くん!何冷静になってるの!?」
「仕方ないよ望美。これはあたし達にどうこう出来るようなモンじゃないよ。だから白龍だって、抵抗しないで流れに乗ってるんだから」
そう、濁流が彼等を何処かへ連れて行っているのだ。だが水の中に居るというというのに息は苦しくない。否、寧ろ快適だ。望美は訳が分からないであっぷあっぷ言っているが、一度経験した事のある譲、将臣兄弟は至極普通にのほほんと流されている。
そしてリズヴァーンを始めに弁慶、ヒノエ、敦盛、朔は内心驚きながらも平静を保っているように見える。九郎、景時はと言えば「なんなんだ!」「わー溺れる!」など言いながら騒いでいる。ちなみに敦盛と朔は騒ぐ彼等二人を見て、自分が冷静になる事が出来たのだ。
「兄上…みっともない…」
「そうですねぇ、九郎は兎も角景時まで…まぁ分からない事も無いですがそろそろ落ち着いて下さい」
はぁ、と頬に手を当てて溜め息を吐く朔に、弁慶は何処からとも無く薙刀を取り出してブンを振り回した。そのせいで少し九郎の長髪が切れてしまったがそれも仕方ないだろう。というか、何時もの事なのでもう誰も気にする事は無かった。髪を切られた当人だけが「ぎゃー!」と言うだけだ。
「神子、神子、もう直ぐ着くよ」
「着くって何処にって…
ぎゃーーーーーーーーーーー!!!」
白龍の心の底からほっとした安堵の声に、望美は頭の上にクエスチョンマークを付けて聞き返そうとしたのだが、突然の浮遊感に年頃の女の子とは思えない声を上げた。
「落ちてる落ちてる落ちてる落ちてる落ちてる落ちてる落ちてる落ちてる落ちてる落ちてる落ちてる落ちてる落ちてる落ちてる落ちてる落ちてる落ちてる落ちてる落ちてる落ちてる落ちてる落ちてる落ちてる落ちてる落ちてる落ちてる落ちてる落ちてる落ちてる落ちてる落ちてる落ちてる落ちてる落ちてる落ちてる落ちてる落ちてる落ちてる落ちてる落ちてる落ちてる落ちてる落ちてるーーーーーーーーーーーーー!!!!!」
「うるせぇ!連呼しねぇでも分かるっつーの!」
頭から落ちているに、同じく頭から落ちている将臣が叫んだ。
同じく頭上から地面とチューします組のリズヴァーンは地面を見て「む…」と言った。
翻りすぎるスカートを抑えながら、望美は譲に抱えられ落下していく。ちなみに朔は言わなくても景時だ。
「おい!俺達は何処に落ちているんだ!?」
「―――――どうやら私達は上手くいけば湖の上に落ちるようだ」
「あーつーもーりー!!!そんな淡々と言わないでよ!
ちょ!将臣!アンタ巽(ソン)の八卦なんだからなんとか出来ないの!?」
の言葉に、誰もがそんな無茶な…と思ったが口に出さないでおこう。彼女も必死なのだ。誰もが思っているが地面とキスなんてしたくない。将臣や敦盛はどう思っているのかは知らないが、ファーストキスが地面なんて最悪だとは思っているのだ。
そんなの心境を悟ってか、また彼本来の兄貴分な性格が出たのかハッキリとはしないが将臣は腕を伸ばせる限り伸ばして、の頭を抱えた。
暫くして、湖の水が盛大に飛び跳ねた。
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その日、彼女は物忌みの日であった。しかし幼い少女は彼女にその旨を伝えていなかった為、彼女は町の散策に出掛けてしまった。それから暫くして、彼が邸に訪れた。
「やっ、泰明殿!神子さまが…神子さまがあぁぁああぁ!!!」
涙目で少女は彼――泰明――に訴える。訴えられた泰明はと言えば、何時もの無表情で答えた。『問題無い』と何時もの台詞を。
「神子は、誰と共に居るのだ?」
「あぁ、それならイノリと詩紋だぜ。今日はなんでも、神泉苑に行くんだとよ」
泰明の問いに答えたのは少女ではなく、剥き出しの腕に刺青のようなものが施してある青年だった。橙の髪が太陽の光に当たって眩しい。
涙目で泰明を見ていた少女は、青年の言葉に涙が止まった。「え…」と暫く呆けた後、真っ赤になって青年に言った。
「天真殿!どうして神子さまが出て行ったのを黙っていたのですかっ!?」
「あかねの物忌みなんて知らなかったし。あいつ等、うっきうっきしながら出て行ったし…」
「泰明殿!天真殿!お願いで御座いますから神子さまを連れ戻して下さいまし!!
―――――占いによりますと、今日は何かが起こるのです。そんな日に神子さまが二人の八葉と出て行っていたとしても…私は心配で御座います!」
「何かが起こるって、何がだよ」
「それはもう起こった。
先刻、神泉苑で大きな神気を感じた」
「やっ…泰明殿〜〜〜〜〜!」
顔を隠して泣き始めた少女に天真は慌てる。だが泰明は無言で部屋を出て行った。
それに続き、天真も「悪い、直ぐ連れ戻す」と言って近くの女房に少女を頼み出て行った。
邸の外に出た天真は、神泉苑の方角から大きな力を感じた。邸には強大な結界が張り巡らされており、探知能力に優れていない天真は分からなかったのだ。道行く人々がコソコソと話をしている。「神泉苑に…」「あれは誰だ」「鬼が現れた」など。
「なぁ泰明、」
「あぁ、そうだ。あれは龍神の神子や八葉の神気と酷使している」
「めんどくせぇ事になりそうだ「泰明ーーーーーーーーーー!!!」」
「?」
「ねぇ、さっきの神気何?龍神の神子と八葉の気配がうじゃうじゃなんだけど!後、すんごい大きな力も一緒に居るんだけど!!!一体アレは何さ!?まさか隕石落下とか?」
「阿呆か。取り敢えず、行けば分かるんじゃね?俺に泰明に、お前が居るんだし。戦闘は出来るだろ?」
「そりゃ、そうだけど………なんか天真にそう言われると、少将に言われたときより腹が立つわー」
はそう言いながら、さりげない仕草で髪の毛の中をごそごそと探る。天真が「げ」と嫌な表情をした途端、天真が歩いていた場所にはキラリと光るワイヤーがあった。「甘い!」とが手首をくるんと返しながら言うと、天真の腕にワイヤーが食い込んでいた。
「成長しないのねー天真って。あたしが日がなあの糞ジジイにこき使われていると思わないでよねー。
あたしもアンタと一緒で日々強く逞しくなろうと頑張っちゃってるんだよ」
ほーっほっほっほ、と高笑いをする。天真はげっそりとした表情で内心溜め息を吐く。
神泉苑は直ぐそこだと言うのに、今から疲れてしまったようだ。
と泰明が神気を感じた場所は同一であると共に、あかねと朱雀コンビの気配もすると二人は言った。泰明が札を構えると、天真・も戦闘態勢に入る。ちなみに泰明が後衛になっている。髪の毛の中にしまっているワイヤーを一握り、は自分の手首に巻き付ける。
怨霊の気配では無い為、そこまで警戒しなくてもいいと思うのだが、一応念の為だ。
「あかね!詩紋、イノリ!!!」
は、見知った後姿に向けて言った。