26.かみさま、どうかおねがいします。











気が付くと、カーテンのすき間から朝日が入っていた。
かけられた布団をはぐ。
見渡すと、見覚えのある部屋で。


ベッドから降りてドアを開ける。
美味しそうな匂いが鼻を擽った。


階段があったから、階段を降りる。
トントントンと台所から音が聞こえる。
音のする方にあたしは向かった。



「おはよう、早くしないと遅刻よ」



「……姉、さん?」



「なぁに寝ぼけてんの?あぁもうこんな時間っ!悪いけど、あたしもう行くから!」



姉さんはソファーに置いてあった大きな鞄を掴んで、駆け足で玄関に行った。
低めのブーツを履くと、足早に出て行った。


ふと見ると、テーブルの上には朝食が。
カレンダーには25日に、月命日と書いてある。
あたしと姉さんは、生きているんだ。


あたしはテーブルにつくと、一人食べ始めた。
時計は8時前を示している。
急がないと遅刻だ。
あたしは一気に朝食を掻き込んだ。


洗面と歯磨きをして、2階に上がる。
服をパジャマから着替える。
ポケットから、何か丸い玉が落ちた。



「宝玉……やっぱり、夢じゃなかったんだ。

 ―――――ありがとう、女神さま」



あたしはそれを拾い上げて、机の上に置いた。
その時、調度8時を知らせる音楽が鳴った。
慌ててランドセルを背負い、あたしは部屋を出る。


階段を降りて、玄関に走り靴を履いて、家を出た。
施錠をきっちりして、あたしは通学路についた。










教室に入ると、クラスメイトたちが隣のクラスの転校生の話をしていた。
転校生は男子で、とても格好良いとか。
美少年がよく似合うとか。
下の学年に妹が居る、とか。



はどう思う?隣の転校生!」



「隣は隣じゃん。ウチのクラスじゃないんだから」



「そーなんだけどさー」



「気になるなら見に行けば?」



「まだ来ていないのよ〜残念!ね、だからさ、休み時間見に行こうよ!」



「嫌だって言っても問答無用でしょ?行くよ」



その時、チャイムギリギリで三谷が入って来た。
三谷は何故か頬が紅潮していて。
何があったんだろうか。


調度その時担任が来て、あたしは三谷に声をかける事が出来なかった。
次の休み時間にでも聞いてみよう。
あたしは担任からの点呼に耳を傾けた。



と呼ばれると、返事をする。

「はい」

と。
全員の点呼が終わると、連絡に移る。
教室の理科は理科室でやるとか、廊下を走らないようにとか。
お家の人のアンケートを回収しますとか。


そこで一斉にアンケートを出すあたしたち。
あたしも例外では無い。
見てみると、アンケートは回答の跡があり。
書いた人の欄に姉さんの名前が書いてあった。


アンケートを回収した所でチャイムが鳴った。
あたしたちは一時間目の準備をする。
教科書やノートを出したり。
尖った鉛筆はあるか、とか。


トイレに立った所で、隣の転校生が気になる女の子たちは隣のクラスを覗きに行った。
ドアからこっそりと中の様子を見る。



「あっあの人が転校生だよっ!」



「なんか、格好良いね…」



「ねぇ、名前は?」



女の子たちが顔を合わせていると、やっとあたしも見る事が出来た。
あの淡い色素の髪の毛は。
黒いトレーナーは。
難しそうな本を読むあの姿は。


そして顔を上げた。
あたしたちと目が合う。
あたしは嬉しくて、よく見ていないと分からないように微笑んだ。










あれからチャイムが鳴り、あたしたちは教室に帰る。
授業が始まってもあたしたち女の子は転校生の話しをしていた。



「格好良かったよねぇ…名前、なんて言うんだろう」



「次の時間、話し掛けに行こうよ」



「アタシたちクラスメイトじゃないのに?」



「女は度胸よ!ね、!」



「さぁ……でも、同じクラスじゃないのに、話し掛けるのはちょっと……煙たがれるかもしれないよ?」



あたしたちは授業中にも関わらず、ヒソヒソと会話を繰り広げる。
あたしは専ら、聞くの専門なんだけど。


先生が、静かにと注意した。
あたしたちは授業に集中する振りをする。
先生が黒板に向くと、悪戯っ子のようにペロリと舌を出した。


その時、終わりを知らせるチャイムが鳴った。
挨拶を済ませて、あたしたちは思い思いの行動を起こす。
お喋りを始めたり、友達とトイレに向かったり。
また隣の転校生の事を話したり。


彼はあたしを覚えているだろうか。
幻界で短い期間だけどあたしと旅をした事。
あたしを助けてくれた事。
あたしの手を繋いで現世に帰った事。



「あたしは…ちゃんと覚えてるよ」



「何か言った?」



「ううん、何でもない」



「ふぅん」



しまった、と思いながらあたしは笑顔で返した。
あたしはトイレに行こうと思って席を立つ。


がトイレに行くからあたしも。
という人たちも席を立ち、廊下に出た。


すると懐かしい気配が。
その方を見ると、美鶴が一人で立っていた。
そして、口を開いた。









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