24.だって、もう失いたくなかったんだもの。
「っ…くぁっ!!………いい加減に…してよっ!」
あたしは腕を前に出して、焔をに向けた。
風の力も使い焔は一気にの身体を駆け巡る。
「…やっとあたしを殺すんだ…」
「アンタ、やり過ぎなんだよ」
あたしは燃えるを眺めて言う。
そして跡形も無く焼けた時、心臓がわしづかみにされたように痛み始めた。
あたしはうずくまり、痛みに耐える。
「なっ…なに?」
身体が焼けるように痛むのは気のせいじゃない。
あたしがを燃やしちゃったから、あたしも燃えるんだ。
「やだっ、しにたくない……しにたくないよぉ!!」
「っ?!」
「………みつる?」
「…違う、よ。僕は…芦川じゃない」
見上げると、くたびれた服を着ている三谷が居た。
美鶴の名前を言うと辛い表情をする。
それでもあたしは三谷に美鶴の事を聞いた。
「美鶴は?」
「芦川は………」
「本当の事を、言って」
「消えた。もう一人の芦川が死んじゃったから」
「じゃあ、あたしも消えちゃうね……
ねぇ三谷、あたしたち間違っていたのかな……?」
「え?」
「願いを叶える為ならなんだってする、っていう考え方……だから駄目だったのかな?」
「…っ!!?」
「……三谷、アンタが正解、なんだろうね」
「……っ!」
身体が段々薄くなってくるのが分かって来た。
あたしはへへへと笑った。
本当にそろそろ消えちゃうかな。
「三谷、バイバイ…だよ?」
あたしは空を見上げながら言う。
だってあたしはを殺したんだから。
もう一人のあたしはははもう一人のあたし。
だからが居なくなった今、あたしも消えて無くなっちゃうんだ。
「やだよっっ!」
あたしの身体の向こうに青い空があるのが見えた。
もう時間が無い。
三谷、あたしや美鶴の変わりに、アンタが願いを叶えて。
バラバラになった、家族を取り戻して。
願いが叶うのに、なんでそんな泣きそうな顔をしているんだろう。
男なら、泣かなくてもいいじゃない。
本人が泣いていないんだから。
「運がよければ、現世でまた会おう?
―――――美鶴と、三人で……」
あたしはそこで、意識がなくなった。
暗い水底に身体が堕ちていく。
冷たい、冷たい水の底。
あたしは堕ちていく。
そんな時、あたしの手首を掴んだ奴が居た。
うっすらと目を開ける。
美鶴だ、と思ったから違った。
………姉さん
姉さんは水面上へとあたしを連れて行く。
岸に上がると、父さんと母さんも居た。
「あのまま行っていたら、死んでいたわよ」
「………もこっちに来ちゃったのね」
姉さんが厳しい顔で、母さんが悲しそうな顔で言う。
父さんはそんな母さんの肩に手を置いた。
「あの状況では仕方無いとは言え……正直アンタまでこっちに来て欲しく無かったわ」
「そんなに言ってやるな。……いや、にはまだチャンスがあるんだからな」
「折角あたしが追い返したってのに……何をどうしたんだが」
「、お父さんの言う通りよ。この白い道を進んで行きなさい。
気をつけて後ろを振り返っては駄目よ」
母さんがあたしを抱きしめてくる。
その暖かさに、涙が零れた。
あたしは母さんの背中に腕を回す。
六年振りの、母さん。
あたしは母さんの胸に顔を押し付けた。
駄々っ子のように首を横に振る。
折角、会えたのに。
どうしてまた離れなければいけないの。
「、言っただろう?お前は生きるんだ」
「あたしたちの分もね!
だからさ、泣かないで。
あたしたちだって泣きたいの……お別れくらい、笑ってしようよ?」
「、あなたが中々行かないからお迎えが来たわよ。彼がの好きな美鶴くんでしょう?」
母さんが見た方向を見ると、小さな女の子を連れた美鶴がこちらに歩いて来ていた。
小さな女の子は美鶴を急かすように歩く。
「ほら、お兄ちゃん早く!」
と言っている。
姉さんがあたしの背中を押した。
あの時のように。
あたしは前にのめり込む。
こけそうになった所で、美鶴が支えてくれた。
「……いきなり、女神が現れて…」
沈黙が続いて、やっと美鶴が口を開いた。
「現世に帰ってもいいって。も、と一緒に」
「だから言ったでしょ?あそこの道を後ろを振り返らずに進むと、現世に帰れるよ」
「………姉さん」
「あっ、なぁに二人してそんな顔してんのよ!早く行きなさいよ!」
「「あっ!」」
「こらっ!振り返っちゃ駄目って言ったでしょ!」
立ち止まると、あたしは姉さんを見ようと身体を動かす。
すると姉さんに怒鳴られた。
「前に、進むしか無いんだな」
美鶴が言った。
いつの間にか美鶴が連れていた女の子も、見えなくなっていた。
「美鶴……あの…ごめん、なさい」
「……謝るのは俺の方だ。、俺の方こそ、ごめん」
「美鶴、行こう」
「あぁ」
美鶴はあたしに手を出してくる。
あたしは、その手をとった。
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