23.愛というのは苦しすぎる
三谷を追い掛けてある部屋に行くと、美鶴と向かい合っていた。
あぁやっぱり此処に宝玉があるんだ。
美鶴が宝玉を手にして、願いを叶えるんだ。
でも。駄目だ。駄目だよ美鶴。
その鏡から宝玉を取り出すと。
世界が終わるのと同じ事が起こる。
美鶴が、杖を振り上げた。
側の鏡に突き刺す。
パリッ…ン……!
鏡が割れた。
破片がキラキラと光る。
「美鶴ーーーーーっ!」
あたしは力の限り美鶴の名前を呼んだ。
するとあたしの声が届いたのか、美鶴と目が合った。
けれども直ぐ反らされた。
あたしは風のボードで美鶴の前に立つ。
背後に三谷が居た。
「美鶴は、知ってるんでしょ?闇の宝玉は、魔族を封印している事……」
「……勿論、知ってる」
「美鶴は何とも無いの?」
「言っただろう。も願いを叶える為ならなんだってするって!
俺だってそうさ。願いの為なら……
アヤを生き返らせる為なら、幻界だってどうでもいいんだっ!」
「……………」
「もう、止める事は出来ないんだ」
「でも美鶴っ」
「だって、こうするんじゃないのか?俺と同じ事を」
「………それは……」
「お遊びで来ているんじゃないんだ。俺もも、三谷も。
分かってるだろう、俺たちは旅人なんだから」
「でもっ、あたしはっ……」
「幻界が無くなるのに、芦川はそれでもいいの?」
「俺は幻界なんてどうでもいい!」
美鶴が杖を振る。
衝撃波みたいな塊が、あたしと三谷の間に入った。
爆風に身体が浮く。
三谷は後ろに吹き飛んだが、エアクッションのようなものが剣から出た。
浮いた身体のバランスを取り、あたしは床に足をつける。
無傷なあたしを見て、美鶴はあたしの方へと足を向けた。
向き合うようにあたしたちは立つ。
「み…みつ、る?」
「ごめん」
何がごめんなんだろう。
そう思った瞬間、後頭部に鈍痛が走った。
足が自然と折れる。
耳元で美鶴が、
「ごめん」
もう一度呟いたのが微かに聞こえた。
ふと気が付くと、あたしは真っ白な世界に居た。
此処は何処だろう。城の何処かの部屋なのかな。
「…っ!っ!」
知らない女の子の声。
振り向くと、女の子とその両親らしき人が三人並んで立っていた。
女の子はニコニコと笑っていて、両親らしき人たちは微笑んでいる。
「良かった〜やっと声が届いたみたい。声がかれるかと思ったわ。!早く気付きなさいよ!」
「駄目よ、をそんなに怒っちゃ」
「今までお前の声が聞こえる所に居なかったんだからな」
「でもっ!………そうね。こうしてあたしの声が聞こえたんだし、仕方無い、良しとするか」
三人はあたしの事を知っているかのように話す。
女の子は、何故かあたしと似ていた。
「ってかさっきから何黙ってるのよ。もこっちおいで」
女の子があたしに手を伸ばした。
そしてあたしの手首を掴もうと触れた。
するり
女の子の手はあたしの腕を擦り抜けて空をきった。
そして女の子は思い出したように小さく「あ」と呟いた。
「そっか。そういやには触れなかったんだ………」
「仕方無いわ。は生きているのよ。こうして見る事か出来るだけでも奇跡なんだから」
「大きくなったな。……」
男の人がまたにこりと微笑んだ。
その微笑みは、見覚えがあった。
昔、あたしに向けてくれた微笑みだ。
「、まだ分からないの?」
「仕方無いのよ。は小さかったんだから。、本当に、大きくなったわね」
「昔はあたしや父さんに金魚の糞よろしくついて回ってたもんね」
「それがの可愛い所なんだがな。あんな事があったばかりに……」
「には、怖い思いをさせたわ。守れなくて、ごめんなさいね」
「だけでも助かって良かった。あたしたちを忘れないでくれてありがとうね」
「でもな、憎しみに溺れてはいけない。
の記憶にわたしたちが居るだけで、覚えているだけで構わないんだ。
そして、幸せになってくれ」
あたしの記憶が鮮明になった。
見えにくかった顔がハッキリとしてくる。
「……ね、姉さん、母さん……父さん……」
「やーっと思い出してくれた!
あのね、があたしたちを思ってくれるのはとても嬉しいの。
でもね、犯人を憎まないで。あたしたちはちゃんとあの世で楽しくやってるわ。
だからね、はが思うように。好きに生きて。あたしたちの分も。
結婚して、子供を産んで、お婆ちゃんになって。
それからまた会いましょう?」
「姉さん……?」
「行って!これ以上が此処に居てはいけないわ!」
不意に身体が後ろに倒れた。
姉さんがあたしの胸をトン、と押したから。
さっきまで透けていたのに。
何故か姉さんはあたしに触れた。
久し振りの家族。
とても暖かかった。
涙が一つ、零れ落ちた。
|back|top|next|