21.夕暮れの不安な街に立っている
リナの両親は気さくな人たちだった。
お礼を言われて、あたしはリナの部屋に通される。
「適当に寛いでね」
「うん。そのつもりだから」
「、家に代々伝わるこのご神体なんだけど。
ご神体って言ってもシスティーナ聖堂に奉納し忘れた物なんだけど。
―――これはね、本物の白の宝玉らしいの。
両親にの事を話したら、にこれを譲ってもいいって」
「え?本当に?」
「えぇ私たちが持つより、旅人のに渡した方がいいだろうって話しになったのよ」
リナが宝玉をあたしに渡す。
その宝玉は白く光っていて。
扇に近付けると、強い光を放ちながら納まった。
「これでよしっ!、頑張ってよね?」
「……ありがとう、リナ」
「ふふっ…私との仲でしょう?」
リナはにこりと微笑んだ。
それからリナの両親にお礼の挨拶をして、リナの家を出た。
「ねぇ、聞いてくれる?」
「何を」
「私の独り言」
「言ってみれば?」
「うん………。私ね、昔から踊りが好きなんだ。私にとっては踊りが遊ぶ事で。
それでね、今年踊りの学校に進んだの。
システィーナ聖堂でお祈りをしていると、ダイモン司教が来たの。
ダイモン司教は私の踊りは素晴らしいって褒めてくれたんだよね。
私それが嬉しくて、ダイモン司教が特別に女神の教えをしてくれるって言ったら直ぐついていっちゃった。
そしたらあのざま。ダイモン司教はイルダ帝国と手を組んで戦争を起こすんだって聞いて。
私がどんなに暴れても、僧兵たちは部屋の中に閉じ込めるし……
でも、そんな時にが来たの。
、は強いわ。目的を達成出来る。だから、白の宝玉を譲るの。
白の宝玉の力は癒しの力よ。
、その使い方を間違えないで」
その独り言はまるであたしに語りかけているようで。
あたしの手を取り、リナは微笑んだ。
ハイランダーの詰め所に戻り、与えられた部屋に入った。
あたしは包帯とテーピングを取って、傷口に扇をあてた。
白の宝玉が温かい光を放つ。
傷は全て跡形もなく癒えた。
試しに圧迫してみても、掴んでみても、何ともない。
痛みが無い、そして傷の跡も無い。
赤の宝玉は焔、緑の宝玉は緑、青の宝玉は水。
そして白の宝玉は癒し。
じゃぁ、闇の宝玉はどの力があるんだろうか。
癒しの力が来たなら、次は影とかだろうきっと。
「、入るぞ」
「どうぞ。どうしたのカッツ」
ノックの後に聞こえる声。
ガチャリと扉が開くと、ラフな格好をしたカッツが入って来た。
「思っていたよりも早かったんだな」
「うん。宝玉の在りかを知っているって言っていたから。
でも聞きに行った筈が、宝玉を手にして帰って来たの」
「何故だ?」
「その子、リナの家は代々白の宝玉を護っていた一族なんだって」
「譲って貰ったのか、宝玉」
「まぁ、そんなもんかな」
「それじゃぁ、宝玉は残り一つになったのか。もう直ぐだな」
「まぁね。それで、あたしに何か用?」
ソファーに座ったカッツの反対側に、あたしはココアみたいに甘い飲み物を持って座った。
カッツの髪の毛から雫が一つ、滴り落ちた。
「わたしたちハイランダーは、イルダ帝国に向かう。ワタルも同行だ。はどうする?」
「カッツはあたしについてきて欲しい?」
「無論だ。それに、イルダ帝国に闇の宝玉があると言われている。行っても損は無いと思うが」
そういえば。
美鶴はイルダ帝国に行くと言っていたっけ。
ガセネタの可能性は極めて低いよね。
「行くよ。あたしもついて行く」
たまには団体行動もいいかもしれない。
沢山の人が居る場所で、あたしを知る人が居て。
それが、心地良かった。
暖かかった。
「嬉しいわ!また貴女に会えて!」
「久し振りミーナ。元気にしてた?」
「勿論よ。は……少し変わったわね。何だか表情が柔らかくなってるわ」
「………え?」
あたしは頬に手を当てた。
あたしは、今どんな顔をしているんだろうか。
どんな風に表情が柔らかくなったんだろうか。
「それに、雰囲気も丸くなった」
ミーナは嬉しそうに話す。
あたしはついていけなくて、ただ聞いているだけだった。
ハイランダーの用意した馬に乗り、後ろにハイランダーのヤマトが乗る。
あたしは馬に乗れないから、相乗りをさせて貰うしか無いんだ。
カッツが合図をすると、一斉に動き出した。
何も無い草原に、砂埃が舞う。
海沿いにあたしたちは進んだ。
「さん、肩の調子はどうでしょうか?
わたしが動かさないでとあれほど頼みましたのに。昨夜は外出なされたようですね」
「大丈夫。白の宝玉の力は癒しなんだ。もう平気、だから言ったでしょ大丈夫だって」
「何も無かったから良かったものを……また今度似たような事になったら縛り付けますからね」
「アンタはサドか」
「さんが反省しないのであればそうならないといけませんね」
思いっきり、あたしは顔をしかめた。
この人、あたしの肩を治療した人だったんだ。
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