20.守る者の苦しみ、生きる者の哀しみ











風を、真っ直ぐラウ僧正に放った。
彼はそれを簡単に避けると、同じような攻撃を放った。
風圧であたしは相殺する。
あたしは焔を出した。
赤々と燃え上がる。



「それが宝玉の力ですか」



「そう、赤の宝玉の力」



「赤の、とはまだあるんですね。宝玉の力は」



「さぁ、どうだかっ!」



丸い玉にした焔を、ラウ僧正に向かって投げた。
その動きは不規則。
当たるまで追い続ける。
四方八方から行くように移動させて、スピードを上げた。


ボッ


中心部に居るラウ僧正に命中したかのように、焔は燃え上がった。
煙が茸型に、まるで核爆発したかのように上がった。



「いやぁ、宝玉の力っていうのも、そんなにたいした事無いんですね」



「え?」



ラウ僧正はシールドみたいなのを発動していた。
無傷だった。



「でも…宝玉の力、欲しいですね」



「アンタなんかに、宝玉を使う事は出来ない」



を操れば私も使えますよ」



「出来るもんならやってみなよ!
 あたしは操られるなんて馬鹿はやんないんだから!」



「威勢がいい事で。では、いきましょうか」



ラウ僧正の杖から金色の物体が出て来た。
それの回りは電気がピリピリいっていて。
スタンガンみたい、と思った。


それは真っ直ぐあたしに向かって来る。
風のシールドを張った。


「っ!!

 きゃぁああぁぁあぁぁっ!!!」



っ!」



「邪魔しないでっ!」



カッツが駆け寄ろうとあたしの方に向いた。
ほんの刹那、目を離した隙にラウ僧正は魔法を発動させる。


その衝撃の波で、あたしは壁にたたき付けられた。
肩に強い衝撃が走る。
あたしは床にズルズルと座り込んだ。



「っつ……っ!」



「肩が外れちゃいましたか?もう、攻撃出来ませんね。
 肺も圧迫されたようですし、肋骨も何本かいったんじゃないですか?」



「げほっ!けほっ……るさい……」



あたしは青の宝玉の力・水を発動した。
濁流がラウ僧正に向かって行った。
避けようとしているのを、植物で搦め捕り身動きが取れないようにする。
そして濁流は確かにラウ僧正に当たった。










風で身体を浮かせたあたしは、三谷とカッツが居る場所に向かった。
力を使う度に、あたしの身体が悲鳴を上げる。



「み、三谷…カッツ……」



っ!酷い怪我じゃないか!」



「るさい、傷に響く」



「至急、救護班を呼んで来い」



カッツが仲間のハイランダーに向かって言った。
三谷が駆け足で寄って来る。



!その傷っ…!」



「だから五月蝿い傷に響く」



「ごめん………」



あたしが言うと、三谷はしょんぼりしながら謝った。
別にめちゃめちゃ響いているわけじゃないから別にいいんだけど。
反射的に五月蝿いと言ってしまった。


そうしていると、救護班が到着した。
あたしは救護班の人たちに外れた肩を嵌めて貰ったり、包帯を巻いて貰ったりした。



さん、当分は無理をしないで下さい」



「多分無理ですね、諦めて下さい」



「そんな事言わず、大事をとって下さい」



「アハハ無理だって。あたし旅人だもん。一箇所に留まってたまるもんですか」



「そんな事言うと縛り付けますよ」



「拒否する。無理っつてんだろ」



あたしとハイランダーは笑顔の応酬を繰り返す。
にこにこ。
にこにこにこにこ。
ピリピリと嫌な雰囲気を醸し出す。
あたしも段々口が悪くなってくる。


ハイランダーは溜め息を吐くと、包帯を解き始めた。
テーピングを施して、包帯を巻き直す。
ジーンときていた痛みが和らいだ気がした。



「これで少しは動けます。無理は禁物ですからね」



「覚えていたら気をつけるよ」



さん」



「はいはーい。気をつけます気をつけます」



強く言われて、肩を竦めながら答えた。
あたしは上下に肩を動かして、具合を確かめる。



、この人の言う通りあまり肩を動かさないで」



「三谷までそう言うの?この状況でそう言える?」



ダイモン司教がイルダ帝国と手を組んで戦争を起こそうとしていたのに。
あたしたちは旅人としてこの世界に居るのに。










ハイランダーの詰め所的な宿に通されて。
あたしは本格的な治療をされる。



「カッツ、あたし行きたい場所があるんだけど。明日には此処を発つんでしょ?」



「何処に行くんだ?」



「知り合いの所」



宝玉の事を聞きに行くから。
リナもきっと待っててくれてる。
多分。



「明日までには戻れるようにするから」



「気をつけて行くんだぞ」



「分かってる。じゃあ、行ってくる」



あたしは一人、詰め所を出て行った。
月の逆光で、威厳を失ったシスティーナ聖堂が見えた。


リナの家の前に着くと、リナが戸口の前に座っていた。
靴がコツン、と鳴った。
その音でリナがこちらを向いた。



「そろそろ来る頃かなと思ったわ」



「リナ」



「約束だもの。さ、中に入って頂戴。両親に紹介したいの」



扉を開けて、リナは中に入る。
あたしも促されるがままに入った。









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