18.夢の痕(あと)に囚われて











目が覚めたら、空は明るくなっていた。
何時の間にベッドで寝たんだろうか。
あたしは寝転んだまま、部屋の中を見た。


後ろを見ると、美鶴のドアップが。
なんで美鶴が居るの、と思ったら腰に違和感が。
見てみると、美鶴の手があった。


そういえば、泣いてからの記憶が無い。
あたしどうしたんだっけな。



「おはよう。やっぱり、目が腫れたな」



「美鶴…あたしなんで」



「泣き付かれて寝たんだよ。
 の部屋まで運ぶにも、疲れていたんだ。だから俺のベッドに寝かした」



「あーいや、悪い」



あたしはベッドから降りて伸びをした。
朝日の光りで、美鶴の髪の毛が明るく光った。



「別にいいさ。初めてじゃないんだから」



「そ、そうだね。顔洗って、下に降りようか」



あたしは備え付けの洗面器に水を張って、顔を洗った。
服のシワとかを手で簡単に掃って、美鶴と揃って下に降りた。
髪の毛をてぐしで整えていると、主人が凄い勢いで走って来た。



「お嬢ちゃんっ!無事だったのかい!?」



「はぁ…無事っていうか、そう、ですね。無事、ですよ?」



そういえば、昨日の夜は窓からこっそり入ったんだっけ。
そりゃビックリするわな。
最後が疑問形になっているのは気にしないで。


主人はあたしの手を握ると、凄い勢いで上下に振った。
効果音を付けるなら、ブンブンと。
あたしの肩が外れると思うくらい振った。



「ベニスの娘のリナも戻って来たんだ!今日はお祝いだ!」



「えぇと、小父さん落ち着いて下さい。あたしたちは、これから行く所があるので。失礼します」



「朝食を食べる時間くらいあるだろう?直ぐ用意するから待っててくれ」



主人がうきうきしながら厨房へ入って行った。
あたしと美鶴は、近くのテーブルについて大人しく朝食を待った。


あたしたちはこれからトリアンカ魔病院に向かう。
美鶴に詳しい話しをして貰えば、美鶴はそのトリアンカ魔病院の近くの森一体を燃やして四つ目の宝玉を手に入れたらしい。
証拠に美鶴の杖には、四個の宝玉が埋まっている。
そして昨日、システィーナ聖堂に忍び込んだ時に聞いたらしい。


三谷が傷付いた魔導士に会いにトリアンカ魔病院に行く事を。
傷付いた魔導士というのは紛れも無く美鶴だとあたしは思う。
三谷が知っている魔導士というのが美鶴しか居ないだろうし。
三谷一人しか居なかった、という事を考えると。


三谷はダイモン司教もとい白髭爺に騙されているという事。
ダイモン司教…じゃない白髭爺も何がしたいんだ。
リナが得た情報によるとイルダ帝国と組んで戦争をするだとか言うけど。
戦争をするという確かな証拠が無い。



「美鶴。美鶴はどう思う?」



「俺はあいつに借りを返すだけだ」



「じゃぁ、あたしは美鶴に借りを返さなきゃ」



「はいよ、お待たせ!たんと食べな!」



主人がちょっぱや(死語)で作った料理が運ばれて来た。
料理と言っても、サンドイッチ等の軽食で。
あたしたちは手を合わせてから、食べ始めた。










美鶴はエア・ラダー。
あたしは風のボード。


三谷と若い司教の上空何メートルかをゆっくり進む。
三谷は慣れない馬で、そのシルエットは如何なものかと思うが、ちゃんと前に進んでいる。



「美鶴、あの司教禿げてる。若いのに大変だねぇー。そしてやっぱり胡散臭いね!」



「騙されたに言われても……」



「酷っ!仕方無いじゃん!不可抗力、不可抗力!」



「不可抗力の使い方間違っているぞ。
 正しくは、人の力でもどうすることも出来ない事を表すんだ」



「あたしが騙されました」



なんでかなぁ、美鶴に突っ込まれると反論出来ない。
それにしても美鶴って、物知りだね。
やっぱり頭いいわ、コイツ。



「あ、三谷が中に入った。って、何あの魔法陣って言う奴?」



「あれは……、屋上に降りるぞ」



「ラジャー」



あたしはそう言うと、加速した。
案外慣れてみると風のボードって使いやすい。
あたしのバランスさえ崩さなかったら。


敢えて効果音を付けるなら、ふわっとあたしは屋上に降りた。
美鶴が魔法陣を調べて行く。
そうしていると、馬鹿にしたような笑みを美鶴は浮かべた。



「間違っている。何を召喚しようとしたのか分からないが、これ書いたのはかなりの馬鹿だ」



「(これぞ芦川 美鶴の笑み……)」



「きっと無駄な労力を使って書いたんだから、けなさないであげようよ」



とか言いつつ、あたしもけなす。
だってあたしでも分かる間違いしているし。
馬鹿だねあの司教。



、ボードを出せ。破壊する」



「はいはい、りょーかーい」



あたしは再び風のボードに飛び乗った。
美鶴もエア・ラダーを使い、杖で床を叩いた。
一瞬、魔法陣が浮かびがる。
その瞬間、屋上の床…もとい天井は立派に破壊された。


その下では、人の形をした葉っぱと、三谷、司教が居た。










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