17.僕たちは浮遊する下等生物
「、今よっ!」
リナがあたしに合図を送る。
あたしはドアの前に立って、全ての神経を目の前のそれひ集中させた。
次第にドアの前に亀裂が走る。
もう一息、といった所でメキメキッと言ってドアが壊れた。
「やった!」
「まだまだだよっ!あ、僧兵のお出ましお出まし〜」
心の中でガッツポーズをしてから、ドアだった板を思い切り蹴った。
扇を使って起こしていた風を思い出しながら、風圧で僧兵たちを気絶させていった。
リナの言った通り、廊下には魔法を使う人は居なかった。
「やったリナ!ラウ僧正が居ないよ!」
「油断しないで、前を見てっ!
―――誰が来た!」
「りょーかーいっ」
小さな人影をリナが見付けて、リナが叫んだ。
あたしもリナの声に反応して、竜巻を作った。
「っ俺だ!」
「え…み、美鶴?」
動きがフリーズしたまま、あたしは美鶴を見る。
美鶴も杖をあたしたちに向けたまま固まっていた。
「、何しているの?!早く出なきゃ!」
「あたしの扇は?」
「っ!!
それは俺が持ってるっ。、エア・ラダーを使うぞ!」
美鶴があたしの手に押し付けた物。
それは、ラウ僧正に没収された鉄扇だった。
鉄扇はあたしの手にしっくりと入って。
美鶴がリナを抱えてエア・ラダーを使ったと同時に、あたしも鉄扇を使って風のボードで飛んでいた。
「美鶴そこの壁開けるからどいて!」
あたしはそう言うやいなや、赤の宝玉の力・焔を出した。
ドカンと音がして、壁に大穴が開いた。
その後、青の宝玉の力・水を出して回りを冷やした。
「二人共、行こ。取り敢えずさ、あたしたちの宿に戻ろうか」
美鶴は頷いて、人通りの少ない路地に向かって飛び始めた。
あたしも後から続いていく。
宿に戻るまで、あたしたちは一言も喋らなかった。
美鶴の部屋に入ると、いや、その前から美鶴はあたしに説明しろオーラを痛いくらい放っていた。
リナも訳が分からないと視線で語っていた。
「えと……美鶴、ありがとう。と言うべきなのかな、この状況は」
「それよりも、俺はがあんな場所に居てしかも手元に鉄扇を置いていなかった理由を聞きたい」
「、私はとこの人の関係を知りたいわ。この人も、旅人なの?」
「それじゃぁ美鶴から答えるよ。
あたしとリナはね、ダイモン司教の口車にコロッと乗っちゃって。
軽い軟禁をされていたの。勿論逃げようと暴れたよ。
でもね、強い魔法を使う僧正が居てね。
手も足も出なかったわけ。その時に扇も取られちゃってね」
「そう。さっきはどうも。
私の名前はリナよ。改めて、お礼を言うわ」
「で、あたしと美鶴の関係は…唯の知人程度だよね?
そんなに、仲良く無かったしね。幻界に来てから親しくして貰ってるんだ」
あたしと美鶴の関係。
そんなの考えた事も無かった。
だって気付いたら、そこに居るって感じだったんだもん。
でも近くに居ないと違和感を感じる。
何でだろう。
「そうなんだ。えっと、ミツル、だよね?そうなの?」
「そうだ。それよりも、早く家に帰った方が良いんじゃないか?」
「あ、そうだね。そうするよ。ありがとう、また会いましょう」
「またねリナ。あ、念の為ハイランダーに言って家を見張って貰うといいよ」
「もね。まだまだ聞きたい事は沢山あるけど、今はミツルと話し合う事をお勧めするわ。
それじゃぁ、気が向いたらお父さんがやってるお店に来てね」
リナはそう言うと、何処からとも無くフード付きのマントを着た。
にこにこと手を振って、部屋から出て行った。
あたしも、部屋に帰ろうと立ち上がった。
「……逃げようなんて思って無いだろう?」
「はい?いや、あたしも疲れたしさ」
「が帰って来なくて心配したんだぞ。
宿の主人に
『ダイモン司教のシスティーナ聖堂に行く』
と言って出て行ったきり帰って来ない街の人間が居ると聞いたし。
で、待っても待ってもは帰って来ない。
だから心配して聖堂に潜ってみたら案の定、の扇は見知らぬ野郎が持っていたし、
はで壁を壊して出て来たし。行方不明の女と一緒に居たんだからな」
美鶴はそれでも話し合う事は無いのか、と視線で言ってくる。
その視線、痛い。
あたしが一歩下がれば美鶴は一歩前に。
「………ごめん。心配、かけたんだよね」
「そうじゃなかったら怒らない」
心配、してくれていたんだな。
そう思うと、あたしの中にくすぐったい気持ちが広がった。
改めて、心配している人が居る。
そう思うと嬉しくて。
「美鶴、ごめんなさい。ありがとう」
「………泣かなくてもいいじゃないか」
「違っ…う、嬉しくて。心配、してくれる、人が居るから、凄い、嬉しくて…」
あたしの目から懐かしいものが零れ落ちる。
何年振りだろう、こうして泣くのは。
あたしは両手で顔を隠した。
肩を震わせていると、頭に何かが触れた。
優しく上から下に動く。
「だからって泣かなくてもいいだろう」
「だって、だってぇ……」
やっぱりあたしは、美鶴が好きなんだ。
美鶴が居ないといけないんだ。
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