16.嘘吐き男と夏の魚











「さて、食べられるものは食べたし、作戦会議と行きますか」



コップに並々と流し込んだ水を一気に飲んで、あたしはリナに言った。
リナはおしとやかに水を飲んだ。


念の為と、手足を緩く縛る。
ベッドに寝転び、リナが座った。
これで誰が来ても大丈夫。
でも来るなら弱っちい下っ端がいいな。
無駄な体力は使いたくないし。



「リナ、どうするの?」



「そうねぇ、先ずはこの部屋で騒ぎを起こしましょうか。
 その隙に逃げ出す事は出来ないかしら?」



「すっごい古典的だね。無理、あると思うんだけど……」



も?私も思ったわ。

 あら、の首にかかっている物は何?」



「へ?あたしの首?

 あぁっ!これ、ハイランダーの隊長から貰ったものだ。
 確か、特典は何処にでも入る事が出来る」



「…、知らないようだから教えてあげる。
 そのハイランダーのネックレスって言うのはね、確かに何処にでも行けるわ。
 それとね、少しだけ腕輪と同じ正義を貫く義務があるの。

 という事は、ダイモン司教を捕まえる事が出来るのよっ!」



「えぇっ!?聞いてない聞いてない!あたし正義を貫けなんて聞いてない!」



あたしは首を思い切り横に振る。
ハイランダーのネックレスなんて、あたし使ってないし。
あぁでもこんな事になるんなら、最初からハイランダーのネックレスを使えば良かったかな。
失敗したかもしれない、というか失敗だ。


でもリナは期待に満ちた目をあたしに向ける。
その勢いはすざましかった。
この大和撫子みたいな美人さんがっ!みたいな感じでさぁ。
イメージ崩れたよ。










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キ・キーマやミーナと逸れた時、通り掛かった船。
その船は他の船よりも大きくて。

「入れ」

と言われたけれど躊躇ってしまった。
何とかしてカーテンの中に行くと、髪と髭が白いお爺さんが居た。



「えぇと……」



「そう緊張しなくてもいいです、お若いハイランダー殿」



そう言われると更に緊張しちゃうよ。
僕は促されたように椅子に座る。
お爺さんは、ダイモンと名乗った。
礼拝堂で司教をしているらしい。



「あの僕、仲間の所に戻らなきゃ」



「大丈夫です。
 私の部下が探しております故…直ぐに来られるでしょう」



「あ……そうですか」



「お探しの旅人の居場所も、私共は知っていますので」



「えっ?あっ芦川の居場所も知っているんですか?!

 芦川はっ、彼は何処に居るんですかっ?!」



僕は凄い勢いでダイモン司教に聞く。
ダイモン司教は落ち着いた雰囲気を醸し出していた。



「落ち着いて下さい、お若いハイランダー殿」



ダイモン司教は飲み物を飲みながら言った。
そうしていると、船は礼拝堂の中らしき所に入っていた。
両脇には礼拝堂の人が蝋燭を持って立っている。


僕はダイモン司教に促される侭、中に入った。
食事をしたり、部屋に通されたり。
ダイモン司教が、

「傷付いた魔導士が居る」

と言っていたから僕はついて来たんだし。
キ・キーマやミーナだって来ない。
直ぐ追い付く筈だと聞いていたのに。


そんな時、ある僧正が持っている物に目が行った。
若い僧正が、扇を持っている。
でもそれは唯の扇じゃない。


―――光の扇だ。
前見た時よりも宝玉が増えている。
光も、リリスに来ていたんだ。
でもどうして、光の扇をあの僧正が持っているんだろう。










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外が暗くなった。
部屋には時折、ラウ僧正が暇潰しにと来た。
あたしやリナにちょっかいを出すだけ出して。
毎度のようにあたしが怒鳴ると帰って行く。



「なんなんだよあの優男!」



「不定期的に部屋に来るから解け無いわ」



「そんなにきつくしてないから大丈夫。そういやさっき誰かが来たみたいだけど?」



「ダイモン司教のお客でしょう」



「ったく…あたしたちを軟禁しておいて、よくやるよ。また暴れたろか……」



「それはまだ駄目よ。時期じゃないわ。我慢して」



「でも……」



「時には我慢をする事も大切よ。
 はまだ、あの人たちにとっては注意すべき人なんだから」



「……………分かった」



あたしはベッドに転んで天井を見た。
染み一つ無い天井を、睨んで。
部屋の外の気配を探る。


でも全然、分からない。
誰が見張っているのかも。



、リナさん、気分はどうですか?」



ノックも無しにラウ僧正が入って来た。
だからなんの用だ。
もう出ていってもいいのかな。



「残念ながらまだ解放は出来ませんよ。面白い訪問者がありまして」



「(あたしの心を読んだ?)

 え?訪問者?つーか参拝者は幾らでもいんじゃん」



「立派なお客ですよ。
 ハイランダーの腕輪をした、勇者見習いの旅人ですよ」



それって三谷じゃん。
なんでアイツが来てんの?


てか、三谷もリリスに来ていたんだ。
それじゃぁ、キ・キーマやミーナも一緒か。










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