13.暗い世界が呼んでいる
宿の確保を済ませて、あたしと美鶴は別行動に入った。
「じゃぁまた後で」
美鶴は情報を、あたしはダイモン司教を。
どうしてダイモン司教が引っ掛かるんだろうか。
気になるものは仕方が無いんだけどさ。
「気を付けろよ、」
「美鶴もね、気を付けて」
あたしは近くにあった船に乗り込んだ。
船頭はあたしが乗ると、行き先も告げていないのに船を漕ぎ出した。
それは本当に自然な動作で。
一瞬、何処に連れて行く気だこの野郎、とか思わずハートマークがつきそうな事を思う。
でもダイモン司教が通った跡っぽい所に行っていたから何も言わなかった。
あたしが言わなくても分かっていたのかなこの船頭は。
だとしたらかなり優秀だねぇ。
「旅のお方、此処がリリスの中心部であるダイモン司教のシスティーナ聖堂でございます」
「ダイモン司教の、システィーナ聖堂?」
見上げる角度が高過ぎる、建物を見上げて。
あたしは目一杯、顔を上げた。
間近で見るとなんか迫力のある建物で。
でも逆にその豪華みたいな雰囲気が胡散臭い。
何かを偽装しているような。
船はこのまま進む。
中には沢山の蝋燭と、キリストのマリア像みたいな銅像が奥までぎっしり置かれていた。
きっとこれが女神の銅像なんだろうね。
ダイモン司教ってのは女神に大して忠誠心の厚い人みたいだ。
そして民衆にも人気があるようで。
先程から、出ていく人入る人が引っ切り無しだ。
此処は一般の礼拝者が行き来する場所みたいだ。
あたしも礼拝者だと思われたみたい。
プラス、旅の人。
観とかって思ってくれてもいいのに。
「おや、その格好からして、貴女は旅の踊り子では?」
「……はい、いかにもそうですが。
貴方はどちらさまでしょう?」
「ダイモンと申します。リリスを治めておる者です」
「とするとシスティーナ聖堂も貴方が治めているんですね」
「そうでございます」
「その貴方が、あたしに何の用でしょうか?」
ダイモン司教は、自分が乗っているめちゃめちゃ豪華な船に乗るようあたしに言った。
武器をちゃんと持っている事を確認して、あたしは司教の船に載った。
システィーナ聖堂の中にある僧正たちの居住区にある部屋に、宴の為に足を運んだ僧正たち。
ダイモン司教は、
「日頃熱心な僧正たちに娯楽をさせたい」
とあたしを宴で踊るよう言った。
あたしはその依頼を受けた。
この礼拝堂って何でか気になるんだよね。
調べちゃお。
「旅のお方、差し支え無ければ名前を伺ってもよろしいか?」
「はい、あたしの名は、です」
「…素晴らしい名前ですな。では、殿頼みますよ」
いやいや、なんて何処にでもある名前だろうよ。
あたしとしてはアンタの名前の方が、ある意味素晴らしい。
「分かりました。では、後ほど伺います」
あたしは司教に一礼し、帰る為に元来た船に飛び乗った。
なんかラッキー、上手く出来たら司教から宝玉の居場所が分かるかも。
美鶴に報告しなきゃな。
システィーナ聖堂を出ると、船で商売をしている人たちが居た。
アジアの国でやっているような、あんなの。
あたしは船頭さんに言って、ある船の前で止めて貰った。
暗くなりかけた頃、美鶴が戻って来た。
宿の前で待っていたあたしは、美鶴があたしを確認した時に手を振った。
「お帰り美鶴」
「た、ただいま、」
「収穫あった?あたしはあったよ」
「俺もだ」
「美鶴も案外早いんだ。
あたしの収穫、ダイモン司教と接触出来ましたー」
「ダイモン司教と接触?!
、気をつけた方がいい。何か裏がある」
「当たり前じゃん。
こんな小娘捕まえてさ、踊りを披露してくれーってさ」
「、何時踊るんだ?」
「もう少ししたら。いざとなったら逃げるから、多分大丈夫だよ」
「そういう問題か」
「心配、してくれんだ?大丈夫だってヘマしないから。ね」
あたしは笑いながら美鶴に言う。
あのね美鶴、あたしは覚悟していたよ。
芸者なんだから。
心配しなくてもヤバいと思ったら逃げるから。
「美鶴、あたしたちは願いを叶えたいから幻界に来たんだよ。
―――あたしの願いは復讐……その為なら、なんだってして見せるから」
あたしは美鶴にそう言うと走り出した。
そう、願いの為なら――あたしは何だってする。
ダイモン司教が用意してくれたのであろう船に乗り、礼拝堂に行く。
昼間とは違う通路を通って礼拝堂に入った。
そこは水路の両端に蝋燭を持った僧正らしき人たちがずらりと並んでいる。
アヤシイ宗教みたい。
その中をあたしは進んでいく。
「旅の踊り子、殿でしょうか?」
「そうですが」
「ダイモン司教より伺っております。私は僧正のラウと申します」
「よ、宜しくお願いします」
出迎えてくれたのはラウ僧正という若い人。
そして下っ端っぽい人。
船を降りて、ラウ僧正の後を歩く。
通されたのは、一通りの家具が揃えられた部屋だった。
「何か足りないものがございましたら何なりと申し付け下さい」
「あ、ありがとうございます。こんなによくして頂いて」
「いえ……では、失礼します」
ラウ僧正はにこりと微笑んで部屋を出て行った。
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