05.黒い羊は永久(とわ)を謳う
三谷とキ・キーマのオーダーをユナ婆に伝えると、休憩を貰った。
ユナ婆特製の料理を三谷たちのテーブルに持って行く。
「休憩を貰ったの。ご一緒してもいいかな?」
「いいよ。僕の隣に座りなよ」
「ありがとう。それにしても、三谷って結構食べるんだね」
「え?」
「だって、キ・キーマと同じものを頼んでいるんだもの。やっぱり成長期なのかな?」
料理を出しながら、感心したようにあたしは言う。
料理を見た三谷が、あっ!と言った。
それは料理が多すぎる、という事なのかな。
「遠慮せず食えよワタル〜、ユナ婆の飯は旨いからな!」
「遠慮するしないは別として、味はいいんだよ。ユナ婆のご飯」
「ワタル、言っとくけど残したらユナ婆怖いからな?覚悟しとけよ?」
「えぇ!?そんなぁっ!」
ま、成長期なんだから食べられるでしょ。
あたしも、料理に手を出した。
ボリュームたっぷりのご飯、頑張って食べよう。
そんなに量は多くないけど。
三谷、キ・キーマを見習えば。
三谷が料理を突いている間にも、キ・キーマはどしどし食べていった。
どんな胃袋の大きさをしているんだコイツは。
三谷も、渋々食べ始めた。
キ・キーマが食べて終わり、勘定を机の上に置いた。
立ち上がると、三谷に言った。
「少し出て来る。直ぐ帰るから居なくなるなよー!」
「この調子じゃ彼が戻る前に食べ切れないね」
あたしも食べ終わり、食器を下げる。
三谷はユナ婆に睨まれて、一生懸命口を動かし始めた。
「あ!芦川!」
三谷が通りに向かって叫んだ。
美鶴の名前が出て、あたしの視線も自然と通りに向いた。
すると、フードを被る美鶴の後ろ姿があった。
三谷が立ち上がり追い掛けようとする。
ユナ婆が三谷の進路に立ち塞がった。
だからお残しは駄目って言ったじゃん。
三谷はしょんぼりと席について、食事を再開した。
あたしはお勘定に呼ばれて、テーブルに行った。
その時、勘定をしていないお客さんが席を立った。
トイレかな、と思っているとお客さんは真っ直ぐ出口に向かって行く。
「ユナ婆、此処頼みます。
――お客さん、まだ会計済ませていませんけど?」
あたしが声をかけると、そのお客さんは走って出て行った。
お客さんの後を追い掛けて、あたしも走り出した。
「待てぇ食い逃げ野郎っ!!」
人の波をぬって追い掛けて行くには、あたしは小さすぎて。
あたしは鉄扇を取り出した。
開いて振る構えを作る。
風で、食い逃げ野郎の前に壁を作った。
逃げられないように四方にも同じような壁を作る。
そして第二の宝玉の力を使って、植物の縄を作り出した。
「知ってる?台風の目、中心は風が無いの。無風状態なんだ。
そして、酸素呼吸を行う度に台風の目の酸素濃度が落ちていく。
この位の大きさなら、そろそろ苦しいんじゃないの?」
徐々に風を消して行く。
薄くなるにつれて見えてくる。
食い逃げ野郎が疼くまっているのが。
植物の縄を、風の力でまた飛ばした。
しゅるしゅる、と食い逃げ野郎に絡み付いていく。
「誰か、ハイランダーの居る所まで案内してくれない?」
「その必要は無い。私はハイランダー隊長のカッツだ。見事な物取りだった。
事情聴取をしたいのでご同行願いたいのだが?」
「分かりました。では、この男を任せます」
縄をハイランダーに預けて、あたしはハイランダーの館に向かって行った。
ハイランダーの館。
カッツは専用の椅子に座り、書類を書いていた。
「あの男は以前も食い逃げの前科があってね。
逃げ足も早いもんだからわたしたちも手を拱いていたんだ」
「確かに、慣れている感じはしましたけど。あぁ後、逃げ足も早かった」
「そうか。感謝する、食い逃げ犯を捕まえてくれて」
「日雇いとは言え、雇って貰っている店が被害にあったんですから。当然です」
「お前…旅人か?」
「そうですよ。昨日、幻界に来たんです」
「そうか。その格好から芸者のようだが、何か芸をするのか?」
「まさか、宝玉の情報を得やすくする為ですよ。
でも…芸と言えばそうなのがありますけれど」
あたしは部下らしいハイランダーが持って来てくれたジュースを飲んだ。
カッツはくすりと笑い、コーヒーを飲んだ。
「名前は、何と言うのだ?」
「 と言います」
「か…いい名だな。
今回の検挙の礼だ。旅人ならば、これが無いと不便だろう?」
カッツから渡された袋は、少し重たくて。
感触からお金っぽかった。
ニヤリッとカッツは大人の女って感じで笑った。
「わたしからの餞別もある。この先、当分は賄えるだろうよ」
「隊長さん………」
「ハイランダーの称号を与える事も考えたんだが、にはこっちの方がいいと思ってな」
確かに、あたしはハイランダーにはなれない。
だってあたしは自分の事しか興味が無いのだから。
あたしは願いを叶える為に幻界へ旅をしに来たのだから。
「隊長さん…いや、カッツ、その方がいいですよ」
あたしは、願いを叶える為には、何だってやって見せる。
だってあたしは、復讐者だから。
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