03.仮定世界X











まさかあの銅像に食べられるなんて。
あの蛙に食べられるなんて!



「ぎゃあああぁぁぁっ!!!」



ぼすっ。
嫌な死に方をしたもんだ。
こんな死に方だと、姉さんたちと会えないじゃないか。


此処が、あの世なのかとあたしはキョロキョロと辺りを見回す。
植物で囲まれたようなこの空間が、あの世なのだろうか。



「ふむ…一分三十秒か。
 それなりに早かったが、やはり石の扉を開けるのに時間を要したか」



「あ、アンタは……」



「アンタではない。ラウ導師じゃ、ラウ導師さまと呼ぶがいい。

 さまが重要じゃぞ」



「ラ、ラウ導師さま?」



「そうじゃ。よし、ではおぬしの結果発表をするぞ」



変な髭を生やしたラウ導師(さま)がそう言うと、またあのパステルな色合いの鳥が出て来た。
色に分かれて、高い塔みたいなのを作っている。
ラウ導師はふよふよとあたしの方に近付く。



「結果発表?」



「先ずは体力、問題無い。
 この年の女の子にしてはかなりあるようだ。100点。
 特殊能力はまだ分からぬ。未知数じゃ。
 勇気、というよりかは度胸があるの。

 総合評価、88点じゃ」



「88点?ってか特殊能力って何よ?」



「なんじゃ、自覚しておらぬのか。なら良い。
 おぬしに与える装備についてだか…何か希望があるかの?」



「装備……動きやすくて、身軽なもの。
 かつ、情報を集めやすい。


 その前に、どうやったら願いが叶うのか教えて」



何も知らんのか、と言いながらラウ導師は教えてくれた。
このヴィジョンに存在する五つの宝玉を集めること。
五つ集めると、運命の女神が願いを一つだけ叶えてくれる。


宝玉を求めて旅をするのか。
じゃあ、あたしが言った身軽で情報を集めやすくいものでいいか。
後、自覚していない特殊能力って何だよ。



「おぉ忘れていた。
 よ、おぬしには武器としてこの鉄扇をやろう。

 そして、この第一の宝玉は餞別じゃよ」



ラウ導師が何処からともなく鉄扇を取り出す。
赤い丸い玉をあたしに渡すと、玉が光った。
あたしが手にしている鉄扇に向かって来た。
キイィィンと言いながら玉は鉄扇の窪んだ部分に収まった。
他にも窪んだ所は五つある。


少し開いて、パチンと閉じると赤の宝玉が微かに光って見えた。



「最後に、装備の事じゃが。芸者の装備を与える。
 芸者なら何処でも情報を集めに行けるからの」



「こんなガキが芸者だなんて……」



ラウ導師に言う前に、あたしの身体は浮いた。
服が、アラビアンナイトのお姫さまみたいな格好になった。
勿論上着はある。
見た感じ、なんか色っぽかった。



「オプションでマントをつけたからの。では旅人よ、行くがいい」



ラウ導師が言うと、また目を開けていられないくらいの光が放たれた。
あたしは反射的に目をつむる。
身体がまた中に浮いた感じがした。










「……い…おい!」



頬をぺしぺしと叩かれて、意識が覚醒し始めた。
瞼をうっすらと開けると、何故か芦川の顔があって。



「あし、かわ?」



「なんでお前が此処に居るんだ?」



。あたしの名前は
 もっとも、ヴィジョンじゃ片仮名呼びが一般的みたいだけど。


 ―――あたしも願いがあるから来た。芦川もそうでしょう?」



「…、その格好は」



「あぁ、ラウ導師さまに芸者の装備?にして貰ったの。
 何だかよく分からないけどあたしの特殊能力にはこの鉄扇がいいからって」



「そうか……」



でもあたし、自分がなんの能力を持っているか知らないけどね。
芦川は立ち上がると、あたしに手を差し出した。



「今日はもう暗い。
 この辺りに宿は無いから野宿だ。少し先に大きな木がある」



「何、面倒みてくれるの?」



「来たばかりで分からないだろう。今日だけだ」



「ありがとう。芦川って優しいんだね」



「ばーか。誰だってこの状況になるとこうするさ」



芦川は立ち上がったあたしを見て、スタスタと先に行ってしまった。
暫く先を歩くと立ち止まり、置いていくぞと言わんばかりに振り返った。










次の日。
早く起きたあたしはまだ寝ている芦川を置いて、近くの川に行った。


まだ肌寒いけど、昨日あれだけ汗かいたし。
と服を脱ぎ始める。
肌を被う布が少ないせいか、直ぐ脱げた。


服は綺麗に折り畳んで、木にかけた。
足の先っぽから川に入る。
ヒヤッとした感触が全身を走った。



「あーでもなんか気持ちいいかもー」



調子に乗って泳いでみる。
潜ってみると、底に光るものを見付けた。


何だろうと、顔を近付けてみる。
その時、嫌な気配を全身で感じた。
あたしは迷わず岸に置いてある鉄扇を掴む。


底の方で何かが動いた。



「ばっ化け物ーっ!!」



っ!」



「芦川ぁ!あれ何あれ何あれなにーっ!??」



あたしは鉄扇を開いて思い切り振り回した。
すると、鉄扇から風圧みたいなの出て、化け物に当たった。



「……え?」



よく見ると鉄扇の回りに小さな風の渦が出来ている。
これがラウ導師の言っていた、あたしの特殊能力なのかな。
だけどそんな事を考える暇は無い。
芦川も来ちゃったから水から出るにも出れない状況だし。



「えぇぃ、こうなったらヤケだ!」



水面に向かって鉄扇を振った。
すると、水面から小さな竜巻が現れた。
竜巻は次第に大きくなっていき。


化け物を包むくらいに大きくなると、あたしは留めを刺す為に鉄扇を高く持ち上げる。
目ん玉らしき場所目指して、鉄扇を振り下ろした。










backtopnext