千種の、甲高い(というのは少し…じゃなくて120%嘘だ)声が、早朝の寮内に響いた。またか…と俺は頭を掻き毟る。長ったらしいくせっ毛がかなり鬱陶しい。今度は何なんだと、重い腰を上げる。
ふあ…と大あくびをしながら、声の発生源だと思われる娯楽室に入る。そこには、顔面蒼白の千種がムンクの叫びの如く頬に手を当てていた。お前、それなんのギャグだよ。
「薬師寺!
あたし…あたし………とんでもなく重大なことに気付いたんだけど聞いてくれる?「嫌だ」」
「なんで!?ケチ!」
「うるせぇ」
普段の二倍くらいの声量で千種はこっちによって来る。無駄に近寄ってくるんじゃねぇ。暑いじゃねぇか。っていうかお前そのティーシャツ、ブラ透けて見えるぞ(今日はピンクのドット柄か…なんか似合わねぇな。こいつにはきっとまだ白のスポーツブラが合う)。
そんなこんなで千種は白い歯を見せてガキがよくやる「いー」(本気で無駄に白いなその歯)をやると、たったか走って娯楽室を出て行った。出て行く時に「よねくらああああああぁぁぁぁぁああああぁぁぁぁぁ!!!!!!!!!!!!!!!」と言っていた事から次のターゲットはどうやら米倉に行くようだ。
許せ米倉。俺は自分が可愛いんだ。
「宿題手伝ってええええぇぇぇぇぇえぇえぇ…っ!!!!!」
八月の、ある日の朝。
(こういう時、千種に関わると碌な事が起きないと俺は知ってるんだ)