海神の方舟に乗って


02.呼ばれるのではない、呼ぶのだよ

02.呼ばれるのではない、呼ぶのだよ

 温泉の名前は、龍神温泉と言う。
 熊野入りを果たし、白龍が成長してしまったのは望美にとって嬉しい誤算だった。何故なら怨霊退治の結果が、目に見えているのだから。この時代に来てしまった当初は子供の姿しかひとの形を保てなかったと言う白龍が、大人の姿になるまで五行の力を蓄える事が出来たのだから。
 白龍が子供から大人の姿に成長した事により、歩幅も大きくなり思っていた時間より早く宿へ到着できた一行。

「此処まで来れば、本宮まであと一息ですね」
「はーでも大変だったねぇー」

「……そうですね。九郎は馬鹿正直過ぎますから。僕は君に何遍説明すれば、理解してくれるんですか? 正直な性格をしているからとは言え、此処まで来ると鳥頭もいい所です」
「俺は鳥頭ではない!」
「弁慶、鳥頭は言い過ぎなんじゃない? そういうのは、口に出しちゃ駄目でしょ」

「景時殿、九郎殿の助けになっていないぞ」
「あ、ごめん! 九郎」

「でも、本当、九郎さんにはびっくりしちゃいました」
「そうですね。まさか、名前を全て言おうとするとは思いませんでした」
「此方としては冷や冷やだったがな」

「望美、譲、…お前等も何を言っている」
「本当の事ではないか、九郎殿。反論出切るのか?」

「…………」
「ちょっと九郎、そんな部屋の片隅でのの字なんて書かないで下さい。ほら、皆さん温泉に向かっていますよ」

「お前、俺に恨みでもあるのか」
「それは僕に聞かないで下さい」

 盛大に肩を落としながら、九郎は立ち上がり宿を出て行った。


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