10.

 ふと、足を止めてあたしは振り返った。そこには、他の男子と話をしている寿也。樫本監督や、涼子ちゃんに真島さんには言っていて、寿也にはまだ、言っていないことがある。
 言わなきゃ。言わなきゃ。と、そう思っているにも関わらず、中々口が動かない。
 今日こそ、今日こそ言うんだ 

「寿也、今日は一緒に帰らない?」
「うん、いいよ」

 そして、他愛も無い話をしていると、家の近くの河川敷まで来てしまった。此処を通り過ぎて、住宅街に入ると寿也とばいばいになってしまう。今がチャンスだあたし。言うんだ、あたし。

「ねぇ、寿也」
「どしたのちゃん」
「あのね、」
「うん」

「あたし………。
 あ た し 、 夏 休 み に ア メ リ カ 行 く 事 に な っ た 」

「―――――え」
「父さんの仕事、今度はアメリカなんだって。それで、今回ばかりは父さん一人で行くわけにもいかなくて…夏休み入ったら、行くって」
「そう…なんだ」
「黙っててごめん」
「ううん。黙っていなくなるより、全然…いいよ。
 アメリカ行っちゃっても、連絡は取れるでしょ?」
「うん。今度母さんに新しい住所と電話番号、教えてもらうから」
「うん、手紙、書くよ」
「電話も、して」
「うん、いいよ。ちゃんも、やってくれる?」
「うん」

 ―――――やくそく。
 夕日の河川敷。あたしと寿也の影が長くなる。これからもずっと友達で居てね、と、二人指切りを交わした。