不器用なワルツを一緒に

あらすじ
これはとても幸福にして最大に不幸なお話である。そう私塚原楓十七歳はある日ひょんなことから異世界豊葦原に巻き込まれる(仮)形にして訪れてしまいそこで岩長姫さんという気のいい素敵なおばさまに拾われたのは幸運だったのだけれどもそうまさかそうまさかまさかまさか今まで普通のクラスメイトだと思っていた葦原千尋さんがこの豊葦原のお姫様でありしかもなんだかよくわからないけれど同じくクラスメイトだった葦原那岐くんは「鬼道」という魔法のようなものを使い葦原さんを護るような立場にありしかも風早先生は葦原さんのじゅ、じゅ、従者だと言うのだ。なんてことだ。葦原さんがお姫様だったなんて…!なんでどうして私はこんなところに居るのかと言うとそうあのここ豊葦原に来てしまった原因となったあの日学校から家に帰る途中の道で葦原くんの後ろ姿を見つけた私はうっかりその後を追ってしまったのだだって葦原くん葦原くん葦原くん葦原くん…!どう声をかければ不自然じゃないだろうか「葦原くん!」とここはやっぱり普通に声をかけるべきだろうかそれとも奇をてらって「那岐助くん」と呼ぶべきだろうかちなみに那岐助くんというのはクラスの男子が葦原くんをふざけて呼ぶ時のあだ名であって葦原くんはそれはそれは嫌がっているのだけれどもでも那岐助くんって呼び方可愛いと思うんだけどな。コロ助みたいで。そんなことを考えながらまだ声をかける決定的な一言が見つからずそれでも葦原くんの後をついていっていれば、なんだか物騒なものを持っている葦原さんと風早先生と、全身黒ずくめの不審者と、見たことの無い中国みたいな格好をしたかっこいいお兄さんが居て、気付いたときにはこの世界に居た感じだ。なにがどうなったのか私にも解らない。ただ葦原さんと葦原くんと風早先生にここで一番最初に会った時はものすごい驚いた顔をされてしまった。三人にここは異世界なのだと説明されたけど未だに信じられないしいやでも外の風景とか全然違うんだけどでもやっぱり「違う世界」なんて早々に納得できなくて解らないこととかすごくたくさんあるけどっていうか私はここでなにをしたらいいのか解らないしどうやったら帰れるのかも解らないけどでもほっとしたのはだってここには葦原く「なにしてんの?」

「ッギえああああああああああああーーーーーーああああああああああああああああ!!!!!!!!!!」













バシーン!とすっ飛ばした日記帳という名の手帳は凄まじい早さで恐れ多くも私にと与えられたこの天鳥船の部屋をビュンと横切ると壁に激突してぐしゃりと床に崩れ落ちた。見るも無惨にぐったりとしたそれに駆け寄る術を私は持たず、今の今まで向かっていた机に背を向けるとヒイイイイイと唐突に言葉を投げかけてきたその人を見やる。その人は、葦原くんは吃驚したような顔で一瞬動きを止めてから、眉を寄せて不機嫌そうな顔をする。綺麗な顔が不機嫌に歪んでしまったことは大変心苦しいことこの上ないのだけれどもこちらの気持ちも解ってほしいだってあなたどうしてここに居るのですかなんでここに居るのですか!!!!
「あ うぇ あ あ 葦原く…!!!」
なんでここに!! とまでは声にならなかった。できなかった。あまりの驚きに呂律が上手く回らない。葦原くんは見慣れていた制服ではなく見たことも無い服を着ていて(豊葦原に来たときに何故か既に着ていたらしい)、それはまたかっこいいけど、かっこいいけど、かっこいいんだけど、でも、でもそのかっこよさと今この状況は関係ない!!か、関係、ない!!
葦原くんは私などよりとても頭がいいので、言葉にならなかったなんでここにという私の疑問をすんなりと掬い上げてくれて、不機嫌そうな顔をしながらも教えてくれた。や、やさしい、と思うのは欲目だろうか。
「一応ノックはしたんだけど? それも三回も。一回叩いても二回叩いても反応がないから次叩いても反応が無いようだったら扉を開けようと僕が決めた」
「かっ鍵!!鍵をかけていたはずなのですが?!!」
「僕の鬼道の前にそんなものが通じると思ってるの?」
「…ッ!!!」
魔法使いさま…!!!
擬音をつけるならまさに「はんっ」と言ったような感じで葦原くんは笑う。鬼道というのがよくわからないけれど葦原さんに「魔法みたいなものだよ」と言われたのできっとそんな感じなのだろう。私は難しいことがよくわからない。「きどうつかいだ」と一番最初に言われたとき合気道を略したのだろうかと思ったけど全然違かった。鬼の道と書いてきどうと読むのだ。とにかく合気道とはかすりもしないのだろうことはよく解った。
「千尋が呼んでる。出掛けるから一緒に来てってさ」
「ぅえ…っ?!」


綺麗な草原のような場所を歩きながら、私は前を行く集団を後ろからじっと眺めた。葦原さんは豊葦原のお姫様だけれども、同時に「龍神の神子」という立場にあるらしく、というかこの国のお姫様が龍神の神子?であって?この国というか、この世界の神様である龍神様を呼ぶことが出来るらしいのだ。なんてことだ。そんな凄い人と今までクラスメイトだったなんて…!!こんなことならサインを貰っておくんだった…! いや今からでも遅くないかもしれない。今度貰っておこう。そうしよう。
そんな、豊葦原のお姫様であって、龍神の神子である葦原さんは、今豊葦原を滅ぼした常世の国というところと戦をしている。いくさ…。ちょっと前までただの女子高生であったはずの私たちには、別世界の話のようで、いやここは別世界なわけだけどそうじゃなくて、その、なんていうか、確実に自分とは関わり無いだろうと思っていたものだ。海外では色々なごたごたが生じているし、戦争があったりするけれど、でも私たちの住んでいた日本ではもう戦争をしないと言う誓いを立てたのだ。戦争ではなくとも、たとえば誰かが死んでしまうような、殺されてしまうようなニュースがテレビから流れても、それは自分の居る場所とはほど遠いところで起こるような感覚で、自分は巻き込まれないというよく解らない確信のようなものがあって、そんな確信は宛てにもならないのにそれでもそれを信じて生きてきたのだ。ん?なんか良く解らなくなってきた…。いや、でも、「戦」なんていうものに到底自分が関与などするはずが無いだろうと思っていたのだ。ちょっと前までは。でも葦原さんは生まれ育った豊葦原を取り戻すために常世の国と戦争をすることを決めて、私はそんな葦原さんたちに保護のようなものをされている。葦原さんや風早先生のように武器を使えず、かといって葦原くんのように鬼道も使えない私は、ただ洗濯をしたりご飯の準備をしたり怪我をした人の手当てをしたりと裏方の仕事ばかりだけれど、でもそれだって戦争に参加するようなものだ。戦争に行って傷ついた人の手当てをするのは、立派な戦争の補助行為だ。
そしてお姫様だというのに戦の最前線に立って常世の国と戦っている葦原さんの傍には葦原さんを護るために色んな人が集まっている。風早先生と葦原くんは勿論、サザキさんという背中に翼が生えている(!)男の人、遠夜という名前の喋れない男の人、忍人さんという軍人さんだ。皆皆男の人で、加えて美形さんばっかりである。どうしよう…。いや私がどうすることでもないけどどうしよう……。葦原さんは風早先生と葦原くんのダブルコンボですっかり美形さんに対する耐性がついているのかまったく動じた様子が無いけれど、そんな美形さんたちと深く交流などしたことの無い私はどうすればいいのかわからない。あんな、あんなカッコいい人たちの前で一体何を喋れって言うんだ…!!


「ねえ」
「ひぇあっ?!」
「……」
「え、あ、あ葦原くん!? ど、どうしたんですか!?」
「…あんたさ、さっきもそうだったけど、なにしてんの? さっきから手帳にずっと向かってるけど。…転ぶよ?」
「え?! あ、いやそのこれは、えっと…! 実はわたくし極度の緊張状態あるいは動揺に陥りますとそれを文字にしたためなければ落ち着けないという性分でございましてですから今もこうして手帳という名の日記に動揺を書き連ねていた次第にございます…ッ!」
「……なんでそんな丁寧語なのさ」
「え?!」
目の前の葦原くんは、はあああ〜ととてもとても重い息を吐き出すと肩を下ろした。私は何がなんだか解らずに、葦原くんに話しかけられた瞬間に思いっきり閉じた手帳を胸に抱きしめながらその様子をうかがう。葦原くんはそれきり暫く口を閉ざしてしまって、目の前の私は動くことが出来ず、うわあどうしようああどうしようと悩んでいれば、
「おや那岐、塚原さんとお話ですか? 珍しいですね、君が千尋以外の女の子と喋るなんて」
「うるっさいよ馬鹿教師!!」
私たちより少し前の方に居る風早先生が、朗らかに笑った。






「あ、塚原さん!」
鈴の音みたいな、すうっとした声で名前を呼ばれて振り返れば葦原さんが手を振って私のところに駆け寄ってきた。前まではその声に呼ばれても可愛い声だなあということしか思わなかったのだけれど、お姫様、加えて龍神の神子様という立場を知ってしまった今は名前を呼ばれるとはい!とつい背筋を伸ばして反応してしまう。葦原さんはそれが少し嫌みたいなのだけれど、でもまさか、私のようなド級の一般庶民が普通の顔で普通の姿勢で「あ、なに〜?」なんて返事を出来るわけが無い。ここはひとつ葦原さんに我慢してもらうしか無いのだ。
「あのね、悪いんだけど、那岐に伝言を頼めるかな。那岐に教えてもらいたいことがあって、探してたんだけど岩長姫に呼ばれちゃってさ…。あんまり時間かからないって言ってたから、あとで私の部屋に来てって那岐に伝言お願いしてもいい? 多分堅庭にいると思うから」
「は、は、はい!わかりました…っ!」
「… 塚原さんさ、あの…前にも言ったけど、そんなに畏まらないで? 普通にしてくれていいんだよ。ちょっと前までは普通に話してくれてたでしょ?」
「でっでも葦原さんは豊葦原のお姫様で、龍神の神子様であるのでありますし!」
「塚原さんは王家に仕える侍女とかじゃないんだから、そんなの気にしなくていいんだよ。 …それに私、…塚原さんと、友達になりたいんだよ…」
「とも…っ!」
「あ、い、嫌だった?!」
「…ッ!!」
ぶんぶんと私は首を横に振る。まさか、そんな、こんな可愛くて優しい子と友達になりたくないはずが無い。クラスメイトとして過ごしたのはあまり長くなかったし、たまに喋る程度ですごく仲が良いというわけではなかったけど、でも葦原さんが一生懸命で真剣で優しい人であることは知っていた。
「わ、私でよければ、お、お友達になってください…!」
葦原さんは、二回ほど大きく瞬きをして、それから大きな花が咲くような、そんな可愛くて柔らかい笑顔でふわっと笑った。なんて綺麗な笑顔なんだろう。このことは必ず今日の日記に書こう…!お父さんお母さん、私、葦原さんと友達になれました…!!


葦原さんに頼まれた葦原くんへの伝言を胸に、言われた通り堅庭へと急ぐ。天鳥船というのはとても広くて、広すぎるくらい広くて、急いでいるというのに堅庭への道のりが解らなくなった私は足往くんという男の子に涙ながらに案内してもらった。足往くんというのはとても優しい男の子で、船の中で道に迷って涙目になっていた私を発見すると「姉ちゃん迷ったの?どこに行きたいんだ?俺が一緒に行ってやるよ、…え?堅庭?すぐそこじゃん!泣かないでよ!一緒に行こう!」と一生懸命に励ましてくれてそれから私の手を引いて案内してくれたのだ。なんていい子なんだろう…。肉球が柔らかかった上に犬みたいな耳と尻尾がとても可愛かった。これが俗にいう「萌え」というものなのだろうか……。
そうしてたどり着いた堅庭は、傾きかけた太陽の光りをめいっぱい浴びていて少しだけ暑い。ぱっと見回しても葦原くんの姿は見当たらなかった。どこに居るんだろう。でも、葦原さんは葦原くんととっても仲が良いから、葦原さんが「堅庭にいるよ」と言うなら葦原くんはきっとここに居るんだろう。あの二人はなんだろう、幼馴染みなのかな。いやでも苗字が同じだから兄弟なのかな。それとも従兄弟?とか? だからいつも一緒に学校に来たり帰ったりしてるのかな。いいなあ、お似合いだよな、葦原さん可愛いし、葦原くんは格好いいし…。ああそうだよほんとに美男美女のナイスカップルじゃないか。あうあああ… 足往くんにさっき慰めてもらったばかりだというのに私の目にはまた涙が浮かんできた。隣に並ぶ葦原さんと葦原くんは本当にお似合いなのだ。私の入り込むすき間なんて一ミリたりともどこにも存在しない。するはずがない。好きなのかな好きあってるのかなと考えたらまた切なくなってきた。
「あ、葦原くん…どこに居るです、かあ?!」
滑った。
すごい勢いで滑った。
滑ったついでに下に落ちた。
ずだんっとみっともなく尻餅をついてしまって、それはもう、すごく痛くて、なんたって私の全体重が一気にかかったのだ。痛くないはずが無い。じんじんどころじゃなく強烈に痛む尻に身悶えている、と、
「あ」
涼しげな木陰の中で、すうすう寝息をするのは探し人。そういえば葦原くんは、授業中とかも寝ていることが多かった。木の根元で、木の葉から透けてくる陽の光りを受けながら目を瞑る姿というのは、もともと綺麗な葦原くんの顔立ちをより一層綺麗にさせて。一枚の絵のようだった。それだけ葦原くんは綺麗だと思った。携帯があったなら迷わず速攻で写真を撮ったのに、あろうことか私は携帯を部屋に置いてきてしまった。なんたる失態…!ケータイを携帯せずになにを携帯というのか…!!自分で自分が信じられない。


すやすや気持ち良さそうに眠る葦原くんを起こすのは大変忍びなかったのだけれども、私は「葦原くんに葦原さんからの伝言を届ける」という重大なミッションを遂行中なのだ。ぶつけた尻から太ももにかけてがもうすごい暴力並みに痛かったので立つのを放棄して四つん這いで近寄る。ああやっぱり綺麗な顔をしているなあ。いいなあこんな綺麗な顔。肌とか絶対私よりつやっつやのすべっすべだよ…。
「葦原くん、起きて」
「………」
「葦原くん、葦原さんが呼んでるよ どうしても教えてほしいことが…いやどうしてもかは知らないけど、とにかくなにか教えてほしいことがあるんだって。だから早く起きてください」
恐れ多くもゆさりゆさりと眠る葦原くんの身体を揺さぶらせていただくと、ううんと葦原くんが小さく唸り声を出して、伏せられた瞼が動いた。長い睫毛が震えて、一度開いて、また閉じて、開く。薄い緑をした綺麗な目がぼんやりとしながら彷徨った。
「あ、葦原くん、葦原さんがね、」
「………聞いてたよ… 教えてほしいこと、だろ……? なんなんだよ、もう…」
はあ、と葦原くんが息を吐く。寝起きだから機嫌が悪いんだろうか。葦原くんは低血圧な感じがする。
「…っていうかさ」
「はい?」
「その「葦原くん」っていうのやめてくれない? その苗字は慣れないんだよ」
「(慣れない?)え、…じゃ、じゃあなんて呼べば…」
「別に普通でいいだろ」
「え、え、… お、王子、とか?」
「はあ?! なんだよそれ」
「じょ、女子の間で葦原くんをそう呼んでるんだよ!王子様みたいにかっこいいから…」
「(…) 却下」
「ええ?! そんな、えーっと…じゃ、じゃあ那岐助くん…?」
「なんでその呼び名知ってるんだよ!」
「だ、だってクラスの男子が葦原くんのことそう呼んでたし…」
「絶対に嫌だからね!断固拒否! 僕は草薙剛とユースケ・サンタマリアじゃない!」
「あ、ぷっすま観てるんだ…?」
おもしろいよね、と言ったら、葦原くんはなにかを言いたそうな顔をして、でも言わなくて、見た感じからでも強く唇を噛むとすごく不機嫌そうな顔をした。え、な、なんで…。
「那岐」
「、え」
「そう呼んで。 「葦原くん」と「葦原さん」なんて咄嗟に判断できなくて困る。それ以外で呼ばれても返事しないからね」
「え!? あ、う」
「わかった?」
「っは、はい…!」
ずいと乗り出してくるあしは、違う、な、な、…那岐、くんに、焦って頷けばよしと頷く。那岐くんが立ち上がって、うんと伸びをして、空気を吸う。私はそれを地面に座り込みながら惚けたように眺めていた。気付いた那岐くんが私に顔を向ける。手を伸ばす。えっと驚けば、
「ずっとここに居るつもりなの?」
かあーと顔に熱が溜まってしまうのは、仕方のないことだと思う。だって、そんな、くすくすくすくす笑いながら言われたら、恥ずかしすぎて、嬉しすぎて、死にそうになってしまう。思い上がってしまいそうになる。このまま鼻が伸びてしまって、それを後から折られるのはとても嫌だから、そうなるのなら期待なんてさせないでほしいのに。でも那岐くんは楽しそうに笑っていて、私はどうしようもなく熱くなってしまって、その熱さは、日差しのせいだけじゃないなと、思った。


葦原くんを那岐くんと呼ぶようになったら、何故か葦原さんがものすごいにこにこ笑顔で頷いてきた。意味が解らなかったけれど、あまりにそのにこにこ笑顔が可愛かったので、とりあえず私も笑顔で頷き返しておいた。意味はさっぱり解らない。その時に、「私のことも千尋って呼んでよ」と言われたので、私は葦原さんのことも千尋ちゃんと呼ばせてもらうことにした。うーん、友達って感じ…!お父さんお母さん、娘は嬉しすぎて涙が出そうです。



「また日記?」
「うわっ!」
ぽんと、軽く後ろから声をかけられて、でも私はそんな軽い声に軽く反応を返せることもなく。びくっと肩を跳ねさせれば振り返った後ろの那岐くんがちょっとだけむっとしたような顔をした。うわあごめんなさい…!!
「葦原く…っじゃない、なっ、那岐くんこんにちは!」
「……コンニチハ」
「今日はどうしたの?また昼寝?」
急な話題転換がやっぱり気に入らなかったのか、那岐くんはつんと顔を背けるとどかっと少し音を立てて私の隣に座った。吃驚した私はずざっと距離を空ける。丁度人一人分のスペースを空けた私に、那岐、那岐くんが(うあああああ上手く呼べないいいいい)、思いっきり眉根を寄せて睨むように見てくる。いや、でも、無理だって!!!隣に座るなんて無理だって!!!!葦原くんのことを那岐くんと呼びあまつ隣同士にるんるん座るようなことがあったら葦原那岐(と書いて麗しの王子殿下と読む)親衛隊の皆さんに殺されてしまう…!
「…なんで避けるの」
「だ、だ、だって駄目です!無理です!!なっ那岐くんは知らないかもしれないけど那岐くんは女子達の間で学校に舞い降りたプリンス・那岐として崇めれてるんだよ?!ファンクラブあるんだよ!?親衛隊居るんだよ!?無理無理無理無理!!!」
「(……、)」
ずりずりと尚も後ずさる私に、那岐くんははあぁぁぁあああーととても重い溜め息を吐かれると、ふんと鼻を鳴らしてそっぽを向いてしまった。怒らせてしまっただろうか。那岐くんは「王子」と呼ばれるのが好きではなかったみたいだから、プリンス・那岐なんて呼ばれかたは嫌なのかもしれない。ちなみにファンクラブの名前はプリ・ナギだ。学校の女子の全体で半数以上が入っていると言う噂がある。私は入ろうか入ろうか迷って結局入るのをやめた。会則がものすごく厳しかったからだ。(会則第一条、近づく時は常に二名以上で、二人っきりなど言語道断 会則第二条、王子の私物は無闇に触れてはならない持ち帰ってはならない 会則第三条、呼称は以下の通りに。一年生「葦原先輩」 二年生「那岐くん」 三年生「那岐」 などなど他にもたくさんあり、平たく言えば、「抜け駆けすんなよこのアマ」である) しかもこの会則は護られないとプリ・ナギ幹部らによって手酷いお仕置きがされるそうである。こ、怖い…。
「それ、さ。日記って言う割にはいつも持ってるしことあるごとになにか書いてるよね。…そんなになにを書いてんの?」
「えっ、 そ、その…普通に、あったことだよ。嬉しかったこととか失敗しちゃったこととか… 前言ったみたいに、私なにか動揺したりするとそれ全部ばーって紙に書かなくちゃ落ち着かなくて…。だから、いつでも書けるように持ち歩いてるの。でもたいていは、すっごく嬉しかったこととか、だけど」
「ふぅん …嬉しかったことってさ、たとえば?」
「え そ、それは、その…」
質問に、さっと私が目を逸らすと、那岐くんは即座に反応して面白そうな顔をした。その表情はさながらおもちゃを見つけた小さい子のような顔である。い、いけない、嫌な予感がする…!
「教えてよ 塚原にとってはどんなことが嬉しいわけ?」
「…っ!!」
嫌な予感って言うのはどうしてこうも的中するのでしょうか
まさか、まさかまさかまさか、たとえば那岐くんに名前を呼ばれることであったり、那岐くんが私のことを見てくれることであったり、少しでも私のことを考えてくれたりとか、そんな、そんなことを言えるはずもない。そんなこと口が裂けても言えるはずが無い。どうしたらいいのかどうしたらいいのかこう言うときにどう躱せばいいのかを私は知らない。激しく知りたい。あ、う、えっと、と、もごもご回らない舌で喋る私に那岐くんは、心底楽しんでいるような顔で詰め寄ってきた。サ、サディスティック…!我が校の誉れ高き王子殿下はサディスティック星の王子だった。
「こっこないだ!!」
「こないだ?」
「ち、千尋ちゃんが、その、わ、私と、友達になりたいって言ってくれて…っ すごくすごく嬉しくて、うわあああってなって、でも私がつい感激してたら千尋ちゃん誤解しちゃって「いやだった?」ってすごく焦らせちゃって、私そんなこと全然なくて寧ろ凄く嬉しくて、だって千尋ちゃん可愛いし優しいから、そんなこと友達になれるなんてすごく光栄で、嬉しくて、うわあうわあってなっちゃって、えっと、その、…う、嬉しかった… です」
「……、 ……… ふーん」
「え!? なんでそんな不満そうなの?!」
「別に …あー疲れた。寝よ」
「つ、疲れたってなにもしてない…」
「疲れたものは疲れたんだよ おやすみ」
「ええええ…?」
那岐くんはふあ、と大きくあくびをすると、手をひらひら振って部屋へと帰ってしまった。疲れたって、まだ時間はお昼で、今日千尋ちゃんは出掛けていないから多分那岐くんも出掛けてないのに…。っは!!もしかして疲れたって言うのは肉体的なものじゃなくて精神的なものだったのかな…!お前と話してると疲れるんだよって暗にそう言ってたのかな…!!うああああどうしようどうしようどうしようどうしよう!どうしよう!!


そんな不安を抱きつつも、千尋ちゃんにお呼ばれした私はお呼ばれされるがままに散策に付き合っていた。千尋ちゃんはいつも戦やその準備に慌ただしく動き回っているけれど、時折休憩のように何もない日がぽつりぽつりと置いてあって、私なんかはそんな日くらい休めばいいと思うのにでも千尋ちゃんは外を歩き回るのだ。戦う術の無い私はいつも護られてばかりだから正直ついていくのは足手まといに他ならないと思うのだけれども、でも、千尋ちゃんが出掛ける時はいつも那岐くんが居るから、悪いとは思いながらもそれでもいつもついていってしまう。ああ…こんな感情千尋ちゃんには知られたくない…。足を引っ張ることしか出来ないことを解っているのに、それでも私情を優先しているなんて幻滅されてしまう。千尋ちゃんに嫌われるのは嫌だ。

もやもや〜とするものをそのままに、私はいつものように千尋ちゃんたちについていった。豊葦原という国は、とても緑豊かで、こないだまで暮らしていた私たちの世界とは比べ物にならないほどの緑があった。もう、すごい、草原である。緑の国だ。千尋ちゃんは風早先生と楽しそうに喋りながら遠くの方を指差していて、那岐くんは少し離れたところで一人で居て、私はそんな三人を視界の隅に収めながらぼーっと空を眺めている。なんだかさっき、千尋ちゃんが「外に行くぞ〜」って声をかけたときに見た那岐くんの顔はとても不機嫌そうで、なにかしたかと考えてみても思い当たる節が多すぎてどれか解らなかった。やっぱり、やっぱり私が那岐くんのことを疲れさせているのだろうか不機嫌にさせてしまっているのだろうか…!うあああああどうしよう…。もうこれは、那岐くんが居るからついていくとかそんなことを言っている場合じゃない。活動を自粛しよう、もう、もう誘われても、そのときにたとえ那岐くんが居るのだとしても、絶対絶対行かないでおこう。
「っ楓ちゃん!!」
え、と、思ったときにはもう真っ黒い大きすぎる影が私のことを覆っていた。こういうときよく漫画やなにかでは総てがスローモーションに見えて、というけれど、そんなこと全然ない。全部全部急だった。一瞬の中に膨大な数の出来事が凝縮されて脳が追いつかない追いつけない。突き飛ばされてよろけた私の前で、痛い音と一緒に背中が傾ぐ。飛び散るのは赤だった。
「な、那岐く」
「僕を怒らせたな…」
聞こえる声は、聞いたことも無いくらいに低かった。そんな声を私は今までに聞いたことが無い。ぞくりとしてしまうくらい、心臓の辺りが、ひやりとしたものに撫でられるような感覚に声も息も飲んでしまって、ものすごく、禍々しいと表すに相応しいものを纏った那岐くんが、頭を抑えて遅い速度で起き上がる。だらだらと口の端からヨダレを垂らす狼のようなものは、あらみたまと言うものなのだと教わった。元は神様で、常世の国に荒らされたことが原因でその存在を穢されてしまったのだと。
那岐くんが、勾玉の連なる、鬼道の媒介らしいそれを小さな声でなにかを呟いてあらみたまへと勢い良く向けた。
「四道烈式!」
途端に、爆発のような、烈風のような、そんなものが巻き上がって、私は目も開けられない。それが止んだ頃にはもうあらみたまは居なかった。
「っ那岐く、ご、ごめん!大丈夫!?怪我…っ」
ばたばたと流れ続ける赤い血は、止まらずに緑の上に落ちた。白い肌から流れるそれはとても赤くて、痛くて。どうしようどうしよう、まずは止血を、ポケットから出したハンカチを傷口に当てようとすれば、ぱし、と。はたりとハンカチが落ちる。痛みに耐えるように震える唇が、息を吐いた。
「戦えもしないくせに、ノコノコついてくるなよ…! ッ目障りだ!」
ぱたり
また一滴、赤が落ちる







ズラズラズラズラ文字を書き続ける手帳のページはもはや未来の日付にまで及んでいて、しかし私の指は止まることなく、そのまま未来を歩み続ける。ああ神様私はなんて最低な人間なのでしょうか。足手まといだとは解ってたんですでも那岐くんが居るからと言うそんな不純な動機で私はついていっていたのですそれがどうしたことでしょう那岐くんに怪我をさせてしまった挙句やはり私の存在は那岐くんにとって負でしかなかったのです彼を不必要に疲れさせ苛立たせていたのは私だったのですああなんて私は最低な人間なのでしょうか最悪な存在なのでしょうかこんなことならやはりそんな理由でついていくなどという安易な選択をするのではなかったうあああああ、うああああああああああああああああ
「おいおい… お前、なにしてんだよ…?」
自分でも解るほどにきっと私はどろどろとした暗雲を背負っていることだろう。何故ならさっきから周りの人が私を避けて歩くからだ。引き攣ったような声に顔を上げれば同じだけ引き攣った顔をしたサザキさんが居る。真っ赤な髪の毛を目に映した瞬間に私の目にぶわりと涙が浮かんでしまう。
「あああああサザキさあああああああんんんん」
「うわっちょ、おま、泣くな!俺が泣かせたみたいになるだろ!!」
「役立たずが役立たずで役立たずなんですううううう 足手まといで最低で最悪で疲れるんですうううううううううう」
「はァ?! も、ちょ…っ 話聞いてやるから!聞いてやるから頼むから泣き止め!」
「うっわ、お頭、なに女の子泣かせてんですか〜 サイテ〜」
「ばかちっげえよ!泣かせてねえよ! お前も泣き止め!!」
「うああああああああ」
「泣〜かせた〜泣〜かせた〜 お〜かしらが〜泣〜かせた〜〜」
「黙れこのやろオオオオオオオオオほんとお願いします泣き止んでください頼みますからああああああああ!!!!!」




「おや那岐、こんな時間に散歩ですか?」
「……げ…」
傍目から見ても解るほどに不機嫌な顔をして天鳥船から出ようとしていた那岐は、聞き慣れすぎている声に振り向く。声からして解っていたのだけれども、視覚的に相手を認識すると思わず本音が出てしまった。出された相手はひどいなあと言いつつも、顔は笑顔だ。
「怪我はもう大丈夫なようですね。千尋は治癒術にも長けていますから当然とも言えますが」
「煩いよあんたの千尋自慢は聞き飽きたよ」
「千尋の成長を一秒ごとに追ったフォトアルバムもありますよ?」
「逮捕されてしまえ!」
「ああ、そんなに拗ねないでください。ちゃんと那岐の分もありますから。ほら」
「見せるな寄るな笑うな捨てろ!!」
「気難しいですねえ」
ふうと風早は眉尻を下げて息を吐くと、どこからともなく取り出した「那岐の成長 No.19」と書かれたフォトアルバムをどこかにしまい込んだ。 No.19ってなんだ。あとどれだけあるんだ。ていうかどこから出したどこにしまった!!なんで今それを持ってる!!!突っ込みたいことは山ほどあったが、それを総て突っ込みきれるほど那岐には体力が無かった。ので、諦めた。
「そういえば塚原さんが随分と傷ついているようでしたけど」
「……は?」
「おや 君がなにか言ったのではないのですか?もうそれはそれはひどい落ち込みようで、どんよりとしていましたよ。あのままでは今夜中にでも首を吊るんじゃ…」
さあっと一瞬のうちに顔色を変えて、だっとその場を走り行く那岐の後ろ姿に、風早が微笑む。青春っていいなあ。のちに彼は那岐に「あんたのそういう性格が大嫌いだ」と言われることになるのだが、彼はそれにこう答える。「ありがとう、嬉しいです」。那岐はもう怒りで爆発しそうだった。



「それで もう 私 足手まといって解ってたんですけどでも、やっぱりわたし足手まといで、目障りって言われちゃって、怪我させちゃうし、血、血がすごい流れてて、私のせいで、足手まといで、うあああああああ」
「(うわあ……)」
「疲れるって絶対私のことですよね、もう、お前と居ると疲れるんだよ死ねみたいな、そんなことなんですよね、解ってます、解ってます、だってそうですよね、そもそもそんな、おかしいんですよ、那岐くんって下の名前で呼べることだけで幸運なのに、それだけですらもうプリ・ナギに見つかったら殺されそうな勢いなのに、そんな、馬鹿みたいに欲張るからこういうことになるんですよね、あああどうしようもうこれは首を吊るしかない…」
「ええ?! ちょ、早まるな!早まらないでください!!」
「でもだって私目障りで足手まといで最低で最悪で疲れるんです生きてるだけでもう害悪なんですもうこれは首を吊るしかない」
「待って!早まらないで!!那岐のやつもうっかり口が滑っちゃった感じだから違うからそんなの違うから!!」
「でもうっかり口が滑って出る言葉って言うのは本音なんじゃないですか?!嘘が口から滑りますか!?滑りません!」
「(墓穴ウウウウウ!!!)いやそのだから、えっと、その、違うよ!ほら!ね!前向きに行こうぜ!?」
「ウアアアアアアアアアアアアアーーーーーーーーー」
「(誰か助けてエエエエエエエエエエーーーー!!!)」

その時ばんっと、ドアを蹴破るようにして入ってきたその人は、サザキにとっては救世主、楓にとっては悪夢だった。全力疾走してきたお陰でぜえぜえ荒ぐ息をそのままにして、彼は、那岐は、ずかずかと二人の間を引き裂くと泣き崩れる楓の腕を強引に引っ張る。
「なにしてるのさ!」
「ひあああああああ!!!もう私のことは放っておいてくださいいいいいい」
「サザキ!あんたなにもしてないだろうね!!」
「してませんできません!」
「っ後で覚えてろよ!!」
なんで!?というサザキの抗議は聞こえない。泣き喚く楓を無視してぐいぐいぐいぐい引っ張って、なんだなんだと見てくる奴らには一人残さず睨みつけて那岐はずんずん歩いた。後ろでは未だに楓が泣きじゃくっている。それすらも、イライラしていた那岐にとっては更に苛立を煽るものでしかなくて。ぐつぐつと煮えるようなそれに強く歯を噛みしめる。
「もういいですごめんなさいもういいんです」
「なにが!」
「ごめんなさいでした私もうついていきませんから戦えないのに馬鹿みたいについていきませんもう不必要に面倒をかけるようなこともしません余計に疲れさせるようなこともしませんからだからもうほんとごめんなさいごめんなさいごめんなさい」
「…っ 鬱陶しいな!謝らないでよ!」
「っごめんなさいいい」
「だから謝るなってば!」
「…ッ、」
うっと言葉を詰めた楓にはっとして、ばつが悪そうに唇を噛み締める。そんな顔をさせたいのではないのだ。させたいわけではないのだけど、考えるよりも先に言葉が出てしまってどうしても傷つけてしまう。ああそれが嫌なのだけれど。傷つけたくないのだけど。
「あんたは理解してないのかもしれないけど、荒魂は凶暴なんだ。そこらにいるゴロつきなんかよりもよっぽど強いんだよ。僕らや、千尋みたいに戦える術があるような人間ならともかく、あんたはなにひとつ自分を護る術なんか持ってないだろ?それなのに、誘われたからってついてくるなよ。そりゃあ、千尋があんたを誘うからにはなにか理由があるのかもしれないし、千尋があんたを護ろうと思ってるのかもしれないけど、でも確実に100%、必ずしも千尋があんたを庇えるわけではないし、僕らだってそうなんだよ。連れ回す方にも護る責任はあるけれど、でも、護れない時だってあるだろう?護れなくて、あんたが怪我をしてしまう時だってあるんだ」
「……、はい…わかってます だからもう、迷惑をかけないように、しますから、もう二度と行きませんから、」
「…っ そうじゃなくて…!」
「、」
「そりゃあ丸腰のくせにいつ戦いになるかも分からない場所に居られるのは当然目障りだけど、居ないのも居ないで鬱陶しいんだよ!外は荒魂で溢れてていつ襲われるかも解らないって言うのにそんな危機感少しもなくってぼーっとしてるあんた見てるとすごくイライラするけど居ないと居ないでもっとイライラするんだ!なんなんだよ!こっちの気持ちも考えろよ!!」
「っえ、な、那岐く」
「あんた見てるとイライラするのに、あんた見てないとまたイライラするんだ!なんなんだよ、どうしてくれるんだよ!どうにかしてくれよ!」
「な、」
「っ僕は、 ……僕は、言葉が、…足りないから…… 僕の言葉は人を傷つけてしまう。…僕の存在は、色んな人を不幸にしてしまう。 でも、僕はあんたを傷つけたくないんだよ。あんただけは、傷つけたくも、…不幸にしたくも、ないんだよ…。 だから頼むから、お願いだから、……謝らないでくれよ…」
最後の言葉は小さくて、ゆるゆると空気に溶けてしまって、腕を掴んでいた彼の手も、声を上げていた彼の顔も、遅く遅く離れて、俯いてしまう。どうしてくれるんだよ、と、彼は言ったけど、でも楓もどうすればいいかわからなかった。顔、と言わず身体中が熱を持ってしまっている。それは、その言葉は、自惚れてしまってもいいのだろうか。傷つけたくない不幸にしたくないという言葉を、そのまま、自分のいいように取ってしまっていいのだろうか。どうしよう。どうしようすごく、心臓が煩い。目の前の金色は俯いてしまって顔を見せてはくれないけれど、でもそっちの方が良かったと楓は思う。もしかしなくても今の自分の顔は真っ赤に違いないから、こんな顔見られるのは恥ずかしいから。俯く那岐の前で彼女もまた俯いて、何度も迷って躊躇ってから彼の手に手を伸ばした。指を緩く握る。ぴくりと動いた。
「……私といたら、疲れないですか」
「、…………… …疲れるよ  どんなこと話せばいいのか、どう言葉を返せばいいのか、考えるから」
「……」
「…けど、あんた見てると、…そういうの全部どっかに飛んでって、すごいすごい考えるのに、考えてることぜんぶどっかに行ってしまって、どうすればいいかわからなくなる。…だから、もう、仕方ないから。頭にぱっと出てきた言葉を投げかけるんだ」
「……、… ………… あの、」
「…」
「………わたし… う、自惚れてもいいんですか…?」
那岐が一度大きく瞬く。見上げてきた黒い目は、それでもまたすぐ俯いて。自分の指を握ってくる指がとてもとても細かった。
「……日記にでも書けば」
「、え」
「嬉しいことは必ず日記に書くんだろ?」
「ーーッ!」
うん、と楓が頷いた。那岐がふいと顔を背ける。その頬の色が少し赤かったのは内緒にしておこう。

なにかを言ってる那岐に対して、はい、はいと頷いている楓の後ろ姿を物陰から眺めながら、千尋と風早が青春だなあ…とうっとりするように目を細めた。






リクエスト内容:なんだかんだヒロインのことが放っておけない那岐くんとのお話

夏祭り企画に参加させて頂きました!
いやっほおおおおおぉぉおおおおお! 那岐イイイィィィイイイ! みたいな感じでウッハウッハしながら読みました。
素敵な那岐夢をありがとうございました!
(2008/12/30:展示)