一般に出回っている軍服を着ていなくて本当に良かった、とは思った。シャーリーからの電話を切った後、はまたバイクを走らせていた。向かった場所は恐らく彼女が居るであろうホテル。しかし事前のアポイントメントも取っていなかったはホテルに入る事が出来ず、近くの路地裏で一夜を明かす事になった。そして食事をコンビニで購入した菓子パンと缶コーヒーで済ます。
夜は明けた。携帯電話で確認した時刻は、人々が活動する時間を示している。街に出て行き買い物をする客が増えてくるであろう時間帯。彼女が行動を起すならそろそろかな、とあたりを付けては路地裏から出て来た。
バイクを押して歩きながら、彼女を見つけてから何を言おうと考える。
「そこの人! 危ないですわよ!」
頭上から聞こえた少女の声に、と向かいを歩いている、サングラスをかけた男が顔を上げた。そこには、カーテンを裂いて作ったロープで降りてくる少女の姿があった。まさか、とが思ったその瞬間に、少女の手がロープを放す。重力にならって落ちる彼女。やばいとその下に潜り込もうとしたよりも先に、サングラスの男が動いた。「危ない!」
「(枢木……?)」
男の声には軽く眉を寄せる。釈放されたばかりだというのに、こんな所で何をしているのだ。大人しく家に帰っていればいいものを。
「すみません、何方か存じ上げませんけれど、助かりました」
「あ、いえ。……お、怪我はありませんか?」
「大丈夫です。貴方が抱きとめてくれたおかげで、ほんとうに「じゃないよ。こんな所で何してるの」」
「本国に居たんじゃなかったの?」
「あ、」「あら」
ぽやぽやとした雰囲気を撒き散らしながら、少女は男にお礼の言葉を言う。その途中を、は遮った。
腰に手を当て、仁王立ちをしている彼女を少女と男――枢木 スザク――は冷や汗を浮かべながら見る。ひどくご立腹だと二人は思った。そんな二人の視線を気にする事無く、は靴音を鳴らしながら少女の前まで歩く。そして無言で少女の腕を取り、立たせた。
「SPもつけないで。一体、何処に行くつもりだったの?」
「エリア11の観光をしようと思いまして。丁度いいですわ、、案内をお願いできます?」
でもその前に服を変えないといけませんね。
少女はニコニコと笑いながら言った。ウキウキと手を合わせて、ならなんでも似合いますわよねと言う。「ねぇ、」の低い声が響く。
「なんですの?」
「自分のやろうとしている事と、自分の立場をアンタは理解しているのかい?」
「勿論ですわ」
「じゃあ、どうして一人で出歩こうとしているのかな?」
「うふふ観光ですわよ。
それに、が居るんですもの。付き合って下さいますよね」
は盛大に溜め息を吐いた。
それに、貴方も付き合って下さいますよね? 彼女は続けてサングラスの男にも言った。
「え? あの……、その……」
「彼女、この状態になると無駄だよ枢木」
「え?! …さん?」
「ったく……さっさと家に帰ってたらいいものを……自分がまだ有名人だって自覚が無いの?」
きっと、サングラスの奥は驚いているのだろう。そして、どうしてと表情で語りながら、スザクはサングラスを外した。
「はァ……もういい。何も言わない。
ユフィ、なにぼけっと突っ立ってるの? 行くんでしょう、観光」
「! 大好きですわ!」