方舟と唄うカナリア
舞台女優志望のヒロインと不器用な福田さんのおはなし。
偶然の出会いは計画的に
青森県青森市某所。
「あ、手紙来てる」
郵便受けに入っていたのは一通の茶封筒。宛名には自分の字でと書かれており、様が綺麗な字で付け足されていた。
裏を返すと見覚えのある名前があり、は急いで玄関の鍵を開けて室内に入って行く。
一人暮らしの家にペーパーナイフと言うものは存在せず、焦る気持ちを抑えながらハサミで慎重に開けていく。
今回こそ。
今回こそと祈るように中の紙を取る。プリントされた用紙だ、また今回も駄目だったのか。それとも、奇跡が起こったのか。
「――――うそ、」
その中には、とある劇団事務所の書類審査合格の旨が書かれていた。実技審査の案内も入っている。
面接と実技審査は二週間後。
「バイトのシフト…なんとかしなきゃ」
二週間後。東京駅構内。
旅行用のキャリーケースに荷物を詰め込み、ショルダーバッグにしたかばんを斜めにかけて、歩いていた。目指すは本日の宿だ。新幹線のホームからJRの方へ向かう。
「吉祥寺駅は中央線か…ったく、東京は路線がありすぎるから困る」
こういう時は東京に知り合いがいると便利なものだ。宿に困らない。宿泊の条件は家事全般がひじょうに苦手な家主の変わりにが行なうということで、許可を出してくれた。
人込みに流されながらもなんとかJRへ抜けて、目的の路線を探す。思ったよりも早くホームを見つけて、並ぶ。平日昼間ともあり、ホームにはまばらな人数しか居なかった。実家だと平日昼間など人っ子一人いやしないのに、さすが東京。都会だ。
『今から、吉祥寺に向かう。なにか必要なもんあったら買ってくるけど?』
メール送信。吉祥寺に到着するまでに気付いてくれると嬉しいなと思いながら。
ウォークマンのイヤホンを耳にかけながら、空いている座席に座った。